夢を買う

登場人物

  • 俺(男):サラリーマン
  • 友(男):友人。同僚

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約5分(1425文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

「宝くじ」というテーマで書いた作品です。宝くじって不思議なもので、どうせ当たらないに決まっていると思いつつ、心のどこかでちょっと期待してしまうんですよね。私もかつて、会社が嫌で嫌で仕方がなかった頃に宝くじを買ったことがあるのですが、「高額当選すればこの生活から抜けられる!」という期待が思いのほか強まりすぎて、外れた後のストレスが倍になりました。おかげで転職の決意が固まりましたが。

そのときの体験を盛り込んで書いたのが今作です。夢を見るだけでも、そこにひそむ自分の本心が見えたりするのではないかと思います。もしよければ、埋もれてしまった夢を掘り起こしながら演じてみてください。

本文

   ◇シーン:居酒屋

   SE:店内のガヤ

友「(ビールを一気飲みする)――っぷはぁ! あー! 金曜の夜に飲むビールはうめぇー!」

俺「お前それ毎週言ってんな。気持ちは分かるけどさ」

友「いやだってそうだろ。行きたくもない会社に行って、やりたくもない仕事を五日も頑張ったんだぜ? この瞬間のビールに勝る物はないね」

俺「この間は『パチンコに勝って飲むビールが一番美味い』って言ってたけどな」

友「おお間違いない。それもまたこの世の真理だな。――ま、ビールは美味いってこった!」

俺「それはそうだ。今週もお疲れ」

友「おう」

   SE:乾杯

友「いやー、にしても、こんな労働から間もなく開放されるかと思うと心躍るね」

俺「は? なに、お前会社やめんの?」

友「まあ、うまくいけばな」

俺「おいおい聞いてねぇぞ。いつの間に転職活動してたんだよ?」

友「転職活動なんてしてねーよ。――実はな、宝くじ、買ったんだ。一等十億円」

俺「え、なに。もしかして当たったの?」

友「んー、いやまあ、なんつーか……」

俺「おいおいおい嘘だろ! 今日はお前の奢りか?」

友「……これから当たる予定的な?」

俺「んだよ、期待して損したわ」

友「まあ聞けよ、俺は夢を買ったんだ。十億円という夢をな」

俺「はいはい、よく聞くやつな。夢ってもなあ、宝くじなんて雷に打たれるより確率低いんだぜ? そんな夢、破れるだけ損じゃね?」

友「いやそれが、そうとも言い切れなくてさ」

俺「どういうことだよ?」

友「俺も買ってから気付いたんだが、当たるかもしれないと思いながら生活してると、見えてくるもんがあってよ」

俺「というと?」

友「俺ってほんとに仕事が嫌いなんだなってことに気付いた」

俺「なんだよ、そんなん日頃から言ってることじゃん」

友「いやそうなんだけどさ! ……そうは言ってもなんつーかこう、普段は心のどっかで、『まあしゃーないか』と思ってる自分もいるわけよ。給料もらえてるおかげで普通に生活できてるし? なんだかんだ幸せではあるというか、少なくも不幸ではないじゃん?」

俺「まあ、そうだな」

友「でも、もし十億当たったらって考えると、俺は間違いなく一瞬で仕事を辞めるなって思ったんだよ。やりがいとか誇りとか、全くないんだなって」

俺「……なるほど、刺さるもんがあるな」

友「だろ? ――ぶっちゃけさ、俺、マジで十億当たったら、絵描きになりたいんだよね」

俺「絵描き?」

友「そ。実は俺、昔は絵を描くのが好きでさ。美術大学に入ろうかと思ってた時期があんだよ」

俺「マジか、悪いけど全くイメージないわ」

友「ま、結局、絵で食ってける自信がなくてやめたからな。趣味でさえ、働き始めてからは一枚も描いてないし」

俺「なのに、その気持ちを思い出した?」

友「そうなんだよ。『そういや、絵を描きたかったんだよな』って思ってさ。もしかすると、金のために捨てた夢だからなのかもしれねぇ。もし本当に金の心配がなくなるなら、またやりたいなと思って」

俺「宝くじで、忘れてた夢を思い出す、か……。そう言う意味でも『夢を買った』ってわけね」

友「お、うまいこと言うね。、まさにそんな感じだな。……ま、ぶっちゃけ、ほんとに十億当たるとは俺も思ってないけどさ。それを思い出せただけ、良かったかなとは思ってるよ。これを機に、またちょっとずつ絵を描いてみようかなとも思ってる。腕はだいぶ落ちてるだろうけどな」

俺「夢か……」

友「お前はなんかないの? そういうの?」

俺「俺か。俺は――」