登場人物
- える(女):7歳くらい
- ミル(女):17歳くらい
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約10分00秒(3060文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
ミル さあ、いいわよ?
あなたのお話を聞かせて?
える 私は、小さな頃から、人ならざる者が見えてしまう。
彼らの正体は未だにわからない。
見た目は普通の人間で、ただぼーっと、道端に立っていたり、
同じところをグルグルと歩いていたりする。
話しかけても、たいていは反応がないけど、
たまに、こちらの方を向いたり、手を振ってくれるレイちゃんもいる。
……そう、私は彼らをレイちゃんと呼んでいる。
幽霊と呼ぶのに、なんだか抵抗があるからだ。
世間で言われている恐ろしい幽霊と、彼らの存在は、
私の中でうまく結びつかないのだ。
ミル うん。わかるよ。私もそうだった。
……続けて?
える 幼稚園に通っていた頃、レイちゃんたちと生きている人との区別がつかなくて、
友達の前でレイちゃんに話しかけたり、手を振ったりしているうちに、
私の周りから、生きている人間はすっかりいなくなってしまった。
ひまわり組のみんなは、私のことを「うそつき」と呼び、
私の半径1メートル以内に接近することはなかった。
ミル ひどいね。みんな最低だ。
どっかに骨のあるやつはいないのかね。
……私みたいな? ふふ。
える ある日、その様子を見ていた園長先生が事態を重く捉え、
ひまわり組のみんなを集めてお話をした。
それからは、ひまわり組のみんなから、
「あたまのびょうき」と呼ばれるようになった。
呼び方が変わっただけで、私の周りに生きている人間は戻ってこなかった。
ミル あー。やっちゃってるねー。
「生兵法は大怪我の基」ってやつだ?
こわいよねー。無能な善人は。タチが悪いよ
える しかし、私にとって、そんなことはどうでもよかった。
周りの反応などお構いなく、あちこちを駆けまわってレイちゃんを見つけては、
話しかけたり、手を振ったりして遊んでいた。
運動場の隅や、林の隙間、屋根の上など、レイちゃんはあちこちに現れ、
いつの間にか消えていくので、退屈することはなかった。
ミル うんうん。えるちゃんは強い子だね。
える 私は帰宅すると、園内で遊んだレイちゃんの話をお母さんに話した。
はじめのうちは嬉しそうに話を聞いてくれていた。でも、数か月たって、レイちゃんなる園児がひまわり組に存在しないことを、知ってからは、お母さんの眉間にシワができるようになった。
そして、レイちゃんの正体が、いわゆる幽霊なのだと知ってからは、
眉間のシワはさらに深くなり、どこかへ電話をかけることが多くなった。
ミル おや、これは雲行きがあやしいね
える 私は、近所に住んでいたおばあちゃんに預けられることになった
ミル あー。やっぱりー。
える でも、私は悲しくなかった。
レイちゃんたちはいつでもどこでもいるから。
ミル えるちゃんは健気だねー
える 私は、おばあちゃんと散歩するのが好きだった。
おばあちゃんは、私と同じレイちゃんが『見える人』だったから。
散歩の途中に色々なレイちゃんと出会って、
それで、おばあちゃんも一緒になってお話したの。
お話っていっても、レイちゃんはしゃべれないんだけど
ミル へー。良かったじゃん。
おばあちゃん、能力者だったんだ
える でもね、おばあちゃんが言ったの。
『レイちゃんと、生きている人の見分けがつくように練習しようね』って
ミル あー。まあ、大事よねー
える 散歩しながらね、『アレはレイちゃん。アレは人』って、練習してたの。
たまに、おばあちゃんがクイズしてくれてね。
『アレはどっちでしょうか?』って
ミル うんうん。おばあちゃん、やるねー。
ナイスコーチング
える それでね、ある日、川の上に立っている人を見つけたの。
私、『おばあちゃん、あれはレイちゃんだよね』って、
おばあちゃんに言ったの。
でも、おばあちゃんは、あわてて、『あれは悪い霊だ。見てはいけない』って、
言って、私の手を引っ張ったの
ミル ほー。なるほどね
える その次の日、おばあちゃん。死んじゃった
ミル ふむふむ。見えてきたね
える 私、その川の上の人が、おばあちゃんに何かしたんじゃないかって。
気になって。
おばあちゃんのお葬式の後、川にいったの
ミル 危ないねぇ。いけない子だ
える それで、川の上の人を見たらね。
……場所が変わってたの。おばあちゃんの家の近くまで
ミル よし。大体わかったよ。
……ほら、目を覚まして。
える ……あれ?
ミルちゃん? 私、寝てたのかな?
ミル そうだね。ちょっとだけね。
……寝てるえるちゃんから、大体情報は得られたよ。
催眠状態の方が小さい頃の記憶もはっきり引き出せるからね。
える そっか。
……それで、わかった?
あの、川の上の人の正体
ミル ばっちり。
まあ、今回は運がよかったというか、私が知ってる情報だったからね
える よかった。
……私、怖くて、いまだにあの川に近づけなくて……
ミル そ? じゃあ、今から川にいってみる?
える 怖い、……けど、ミルちゃんがいるなら、行けるかも
ミル 良い子だね。じゃ、いこっか。
SE<川の流れる音>
える この辺りだけど、……いない?
ミル そう! その霊はもういないよ
える ……どうして
ミル その霊はね、まあ、地縛霊なんだけどさ。もう成仏したんだろうね。
える そうだったんだ……。除霊じゃなくて、……成仏?
ミル うん。成仏。
私も、その頃からこの辺りに住んでたから、
えるちゃんと同じように、その霊を見てたんだよ。
『川の上に立っている人』。
あいつは、たまーに移動してたんだ。
おかしいでしょ? 地縛霊なのに
える うん。……でも、力の強い地縛霊は移動できる範囲が広いって。
ミル うんうん。よく勉強してるね。
それで、おばあちゃんも勘違いしたんじゃないかな。
あいつはね。大した霊じゃなかったよ。
それこそ、縁がない人を呪えるような力はなかった。
おばあちゃんのことは、……たまたまタイミングが重なってしたったんだろうね
える ……そっか。……でも、どうして力がない霊なのに移動できたんだろう?
ミル あいつはね、自分の死体に憑りついてたんだ。
川底にね、あいつの死体があったんだよ
える ……そんな
ミル 川に流されてね、だんだん移動してたんだ。
何かのトラブルで殺されたんだろうね。
死体にはおもりがつけられていたから、動きは鈍かったんだけど、
なにかの弾みで一気に移動したのが、その日だったんだと思う
える ……うん
ミル だから、えるちゃんが気に病むことはないよ。
あの霊をえるちゃんが見つけたからおばあちゃんが死んだんじゃないんだ。
悪い、偶然だったんだよ
える ……うん。……ありがとう
ミル どう? 気分は晴れた?
える スッキリした。……もう、何十年も前の話なのにね。
私、ずぅっと、ずぅっと気がかりだったのね。
でもどうしても思い出せなくて。
気がかりなのに思い出せないなんて、不思議だけど
ミル そんなものだよ。
思い出は消えて、その感情の残滓だけがいつまでも残るんだ。
……また来るよ。今度はお菓子でも持ってくるね。
いっぱいおしゃべりしよ?
える ありがとう。ミルちゃん。
でも、そろそろ成仏しちゃうかも
ミル そっか。でもそんなにあせることないよ。
える そう?
でも、あんまりぐずぐずしてたら、ミルちゃんに除霊されちゃうかも?
ミル あはは。えるちゃんみたいな強力な霊は私一人じゃ無理。
やっぱり霊能者が死んだら強力な霊になるんだね
える 私は、占いが専門だったけどね。
……次があるかわからないから、今のうちにお礼を言わせて?
……ミルちゃん。本当にありがとう。
ミル ……どういたしまして。
……またね
SE<砂利道を歩く音>
ミルM 背後で、気配が消えたのがわかった。
振り返ると、そこにはもう何もいなかった。
ミル ……また、お話したかったなぁ
同じ能力がある人なんて、めったに会えないのに
SE<砂利道を歩く音>
