登場人物
- 俺(男):小学4年生。
- 相樂みりん(女):さがらみりん。小学4年生
- 先生(女):小学校教師
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約4分00秒(1257文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
「みりんちゃん、言いたいことがあったら、ちゃんと言わないと」
同じクラスの相樂(さがら)みりんは、太っていて気が弱かった。
太っているくせに声は細くて小さいから、近づいた上で耳を澄ませないと何を言っているかわからない。
「先生も、みりんちゃんが、キチンと『助けて』って言ってくれないと、どうしたらいいか、わからないじゃないの」
今日も同級生にいじめられたその後で、なぜいじめられたことを先生にすぐ言わなかったのかと先生に怒られている。この先生はいじめっ子の親を恐れていじめを強く注意できないくせに、気が弱い相樂みりんにあたりが強い。最悪の人間だ。
理不尽だとは思うが、俺はどうにも相樂みりんの陰気さが苦手だから、助けてやろうという気にもならない。むしろ、ざまあみろという心境だ。そのくらい相樂みりんには人に嫌われる才能がある。
それほど嫌いな相樂みりんを俺が気にかけているのには理由がある。
あるとき、アイツが怒られているときに小声で何かを言っているのを発見した。よくよく観察してみると、アイツは怒られている間、うつむいた顔の下で必ず口をもごもごと動かしている。
気になる。何を言っているのだろう。
次にアイツが怒られているとき、落とした消しゴムを拾うふりをして、アイツの小さな声が聞こえる位置まで忍び寄ったことがある。
怒られているアイツは、いつもの陰気な顔をうつむかせて、もごもごと口を小さく動かしている。
俺は床に落ちている消しゴムを目でとらえつつも、全神経を耳に集中させる。先生の甲高いお説教に混じる、アイツの低くて活舌の悪い陰鬱な声色を聞き分ける。
「……の」、「……に」、「……ね」、「10月3日の午後2時に階段で転んで死ね。10月3日の午後2時に階段で転んで死ね。10月3日の午後2時に階段で転んで死ね。……」
「うわあ!」
俺は、あまりの怖ろしさに大声を出してしまった。
先生は俺を睨みつけたが、アイツはじっとりとした暗い目で俺をただ見ていた。
帰り道、俺はアイツの後ろをつけた。
人通りの少なくなったタイミングで声をかける。
「おい。相樂みりん」
「……はい」
「お前。先生に怒られてるとき、小さい声でぶつぶつ言ってただろ。あれはなんだ」
「……大丈夫」
「大丈夫? そういうのじゃなくて! お前、不気味なんだよ!」
「……大丈夫。外れるから」
そう言って、アイツは帰っていった。
そして、10月5日の月曜日。
朝の会にやってきたのは、いつもの先生ではなく、教頭先生だった。
先生は10月3日の夜に交通事故で亡くなったのだという。
「おい! 本当に死んじゃったじゃないか! 外れてないじゃないか!」
相樂みりんは、クスクスと嬉しそうに笑った。
「……外れたよ。夜だし。交通事故だから」
人の命をなんだと思ってやがる! 気持ち悪いんだよ!
俺は、なおも相樂みりんに詰め寄った。
相樂みりんは反省した様子もなく、ただ俯いて俺の話をやり過ごそうとしている。
そんな態度に俺はさらに腹を立て、相樂みりんを問い詰める。
相樂みりんは俯いている。何事かを呟きながら。
小さな声で。
