ラムネ

登場人物

  • 父(男):45歳。スーパーの鮮魚コーナーの管理者。
  • マナ(女):22歳。大学卒業し、就職のために実家を離れる。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約4分30秒(1336文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

SE<冷蔵庫を閉める音>

父「ラムネ、買っといたから、飲んでいいぞ」

マナ「ラムネ? まだ三月なのに」

父「スーパーで売っててな。お前、好きだろ?」

マナ「う~ん。ビミョい」

父「ええ? だってお前。子供の時はあんなに喜んで、開け方わからなくて、俺に、『開けて開けて』って、せがんできて、なぁ?」

マナ「『子供の時は』、ね!」

父「ああ、そうかい。俺から見りゃあ、まだぜんっぜん子供だけどな」

マナ「えー? もう二十二だっての。明日から一人暮らしだし」

父「そうなんだよなぁ。どうにも実感がなくていけねぇなぁ」

マナ「わたしはお父さんの方が心配だよ。料理はともかく。掃除、洗濯、ごみ捨て、回覧板、ご近所づきあい」

父「大丈夫に決まってんだろぉ。お前が中学生くらいになるまでは、全部俺一人でやってたんだから」

マナ「お母さんが出て行っちゃったからね~」

父「う、おい。それやめろよ」

マナM「私のお母さんは、物心がついたときにはもういなかった。交通事故で亡くなったと聞かされてたけど、本当は元気に生きている。離婚した原因は、どうも私に聞かれたくないようだから聞かずにいるけど、大体、察しはついている」

父「会ったんだろ? この前。……どうだった?」

マナ「この前って……。私がお母さんと面会したのは二十歳(はたち)のときだから、もう一年以上前じゃん」

父「そんくらい、俺にとっちゃあ『この前』だよ」

マナM「私とお母さんが面会したことには、今まで全然、聞いてこなかったのに……。やっと気持ちが整理できたのだろうか」

マナ「……別に。普通に世間話しただけだよ。大学のこととか、就職先のこととか」

父「そうか」

マナ<寂しそうな父を見て察する>「大丈夫だって! お父さんを見捨てたりしないって!」

父「ばっか! 別になんとも思ってねぇよ!」

マナ「そんなこと言って~。私がいなくなるから寂しくなっちゃったんでしょ~?」

父<重みをもたせる>「そうだな。寂しいよ」

マナ<別れが近いのを急に実感する>「なに、急に。……やめてよ」

父「できないなりに、いろいろ調べながらやってはみたが、やっぱり俺に育児なんか向いてねぇよ。お前のばあちゃんにもずいぶん助けてもらっちまったしな。それでも、お前は立派に育ってくれたんだ。寂しいなんていってらんねぇけどよ」

マナ「別に……。私、立派じゃないよ。普通だよ」

父「俺の娘で普通なら上等だよ。……よっこいしょっと」

SE<床が軋む音>

父「明日の仕込みに行ってくるわ。夕方には帰ってくるから、……なんか食いたいものあるか?」

マナ「……オムライス」

父「はっはっは! 了解! いってくる」

SE<扉を閉める音>

マナ「はぁ……。なんか、のど、かわいたな」

SE<冷蔵庫を開ける音>

マナ「え、なにこれ」

マナM「冷蔵庫にあったラムネは、フタのところがラップでグルグル巻きにされていた」

SE<ぺりぺりぺりぺり(ラップを剥がす音)>

マナ「うわ。ビー玉押してある。……だからラップ巻いてたんだ。さすがにもう自分で開けれるっての。……いつまで子供だと思ってるんだか」

SE<からんからん(ラムネをふって、ビー玉がビンにあたる)>

SE<からん(ビー玉がビンにあたる)>

マナ「(ラムネを飲む)ぐっぐっ。……ぷは」

SE<からん(ビー玉がビンにあたる)>

マナ「これ、炭酸抜けてる。(笑う)あは」