登場人物
- 娘(女):鷺ノ宮雫(5)。ドラマ好きで賢い幼女。
- 母(女):家族思いのよき妻だが怒ると怖い。
- 父(男):どこか若さが抜けきらない父。家庭内ヒエラルキーは一番低い。
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約8分(2372文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
「民事訴訟」というテーマで書いた作品です。たまにはコミカルな話を書きたいなと思って書きました。難しい言葉を使いこなしつつ、最後には子どもらしい一面を見せる幼子をどう演じるかがポイントかなと思っています。わざとらしくサ行が舌足らずになっていますが、幼いことが文字から伝わるようにそうしただけなので、必ずしも準拠する必要はありません。
ガチガチにボイスドラマ化するより、仲間内でわいわいやるのにおすすめな台本かなと思っていますので、ぜひ、アドリブでボケを足したりしながら楽しく遊んでください。
本文
父「ふぁあ~あ。よく寝た。今何時だ……って、もう昼か。寝過ぎたな」
SE:布団から出る
SE:足音
SE:引き戸を開ける
母「(静かな怒りを滲ませて)おそよう。随分と優雅なお目覚めね、あなた」
父「あ、ああ……ごめん、ちょっと寝過ぎたよ。仕事の疲れが出ちゃったかなー……なんて」
母「そうでしょうね。昨日も随分と遅かったみたいだし。連絡のひとつもなかったから、何時に帰ってきたのか知りませんけど」
父「悪かったよ。緊急の対応でバタバタしてさ。終電ギリギリだったから、連絡するのも逆に悪いと思ったんだ。寝ちゃってるだろうし」
母「ふーん、そう。昨日は特別だって言うのね。そのわりには、この間も、その前も、残業のたびに連絡を忘れてないかしら。私の記憶違い?」
父「いやそれは……」
母「いつも言ってるわよね。ご飯つくって待ってるんだから、遅くなるなら連絡してって。大体あなたは――」
父「(小声で)……ねぇ、しぃちゃん。ママ、今日機嫌悪くない?」
娘「んー……パパはいつもおこられてましゅよ?」
父「いや、まあそうなんだけどさ。いつにも増して不機嫌っていうか……パパ、分かるんだよね、そういうの。怒られマスターだから」
娘「なさけないパパでしゅね……わかりまちた、しぃちゃんがなんとかしましゅ」
父「えっ、ほんと?」
娘「ちょっとまっててくだしゃいね」
SE:場面転換
※読みやすさを優先し、これ以降は娘の台詞も一部漢字を使用していきますが、変わらず幼女として演じてください
SE:ピコピコハンマー×2
娘「せいしゅくに! せいしゅくに!」
父「なんか始まった……」
娘「こらっ! パパ! せいしゅくに!」
父「ああ、ごめん」
母「え、なに? しぃちゃん、これなに?」
娘「ママもせいしゅくに! ただいまから、家庭裁判を開廷しましゅ! さいばんちょーは、さぎのみやしずく、ごさいでしゅ!」
父「よっ、裁判長!」
◇娘、ピコピコハンマーで父を叩く
SE:ピコピコハンマー
父「いてっ」
娘「ひこくは許可したとき以外発言しないように」
父「まさかのダイレクトアタック……てか俺、被告なんだ」
娘「それでは、げんこく、ママ。主張を述べてくだしゃい」
母「え、えぇ……? 主張……?」
娘「口頭弁論です。ママ、なにをうったえましゅか?」
母「え、えぇと、じゃあ……しぃちゃん裁判長に訴えます。パパがちゃんと連絡をしてくれません。遅くなるなら遅くなるって言ってくれないと困ります。ご飯が冷めちゃうし、食べるのも遅くなっちゃうから」
娘「なるほどなるほど……これは、夫婦の義務違反でしゅね。死刑でしゅ」
父「唐突な極刑!」
娘「育児放棄も追加しましゅ。おなかがへってるのに待たなきゃいけないのは嫌なので」
父「個人的な恨みが入ってる! ……あの、裁判長、口頭弁論なら、パパの言い分も聞いてもらっていいですか……?」
娘「ゆるしましゅ。では、ひこく、パパ」
父「はい! そうは言っても仕事の都合上、途中でスマホを触るのが難しいことがあります! パパは頑張って働いてるんです!」
娘「そのわりには、お給料がお安いみたいでしゅが」
父「痛いとこ突かないでよ……てかなんで給料のことなんて知ってるの」
娘「ママがいつも言ってるので」
父「えっ、ママ……?」
母「い、異議あり! 裁判長、ママのぼやきと本件は関係ありません!」
父「ぼやいてるんだ……給料低いのは俺のせいじゃないのに……」
娘「パパのがんばりをみとめましゅ」
父「しぃちゃん……! なんて優しいんだ……! さすがマイスイートリトルガール!」
娘「それでは、証拠を出してくだしゃい」
父「証拠?」
娘「おしごとを頑張っている証拠でしゅ」
父「証拠かぁ、そうだなあ……あ、じゃあこれは?」
娘「ひこく、これはなんでしゅか?」
父「ああ、えっと、会社のチャットです。上司、えっと、会社の偉い人とのやりとりとかが記録されています。残業を頑張ってることの証拠になるかなって」
娘「確認しましゅ。ふむふむ……」
父「……どうでしょう? 裁判長」
娘「むずかしくてよく分からないので、これは証拠能力を欠きましゅね!」
父「しまった! 園児は漢字が読めない!」
娘「このつるつるあたまの人は誰でしゅか?」
父「あ、うん。それ偉い人。しぃちゃん、あんまり人を指さしてつるつるあたまとか言わないでね」
娘「ハゲのほうがいいでしゅか?」
父「もっとダメ!!」
母「ぷっ……あはは!」
BGM:優しい雰囲気
母「あーもうだめ、我慢の限界! ふたりとも、おもしろすぎよ。怒ってたのがバカみたい」
父「ママ……」
娘「では、げんこく。うったえをとりさげましゅか?」
母「そうね。うん、取り下げます。天才裁判官さんのおかげで、なんだかすっきりしたわ。ありがとね」
娘「これくらいおやすい御用でしゅ! 情けないパパとはちがうので!」
父「え、なんでパパのこと刺したの?」
娘「安月給のパパとはちがうので!!」
父「しぃちゃん????」
母「ふふっ。じゃあ、そんな裁判官さんに、ひとつ、重要な証拠品を提出するわね」
娘「じゅーよーなしょーこひん?」
母「ええ」
SE:フローリングを歩く
SE:冷蔵庫を開ける
母「これが、重要な証拠品です」
娘「ケーキだ!!」
母「お昼ご飯食べたら、みんなで食べましょう?」
娘「やったぁ!! ケーキ、ケーキ!」
父「(小声で)……ママ、お昼からケーキなんて、いいの?」
母「いいのよ。本当は昨日食べるつもりだったんだから、早く食べないと」
父「昨日?」
母「あら、まだ分からないの? 昨日はあなたの誕生日でしょ。せっかく祝おうと思って待ってたのに、あなたったら帰ってこないんだから」
父「……もしかして、今日特に機嫌が悪かったのって」
娘「パパ! ママ! しぃちゃんはケーキを所望しましゅ! はやく!」
母「はいはい、でもまずはお昼ご飯食べてからだからねー。お皿出すの手伝ってくれる?」
娘「てんさい裁判官におまかしぇあれ!」
