帰路をプレゼントとともに

登場人物

  • 私(男):戦争帰りの男。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約3分30秒(1070文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

「クリスマス」というテーマで書いた作品です。個人的には、カップルのイベントという側面よりも家族とゆっくり過ごす日という解釈のほうが好きなので、そんな家族愛を少しばかり強調できるシチュエーションにしてみました。台詞回しはイメージの中のアメリカ人を滲ませたものになっているので、本物のアメリカ人には怒られそう。自由に演じてください。

本文

 真っ暗な闇を切り裂くように、車のヘッドライトが前方を照らしている。まっすぐ伸びるだけの退屈な道にはろくな明かりもないが、曲がりなりにも舗装されているだけマシだろう。あっちで散々経験してきた、ちょっと走っただけで一般人ならゲロッちまうような道と比べたら、快適すぎてあくびが出てくる。

 それに、今の私にとっては、この「何もなさ」すらも、少しばかり心にクるものがある。ついつい涙が出そうになるのは歳のせいかもしれないが、ホームに帰ってきた気がしてちょうどいいんだ。カーラジオから流れてくる古くさいクリスマスソングだって、その定番さが心地良い。耳に馴染む故郷の歌だ。

 ちらりと時計に視線をやった。時刻は午前五時をまわったところだ。だが、カーナビが示す数字を信じるなら、家族のもとへはまだ二百マイル近くある。いくら夜が長いと言ったって、到着する頃には朝が来ていることだろう。きっと、家族はもう起きているはずだ。朝から気合いを入れて準備をしているに違いない。なんたって明日はクリスマスイブ。一年で一番と言って良いくらい、とびきり重要な日なんだから。なんとしても家族で過ごさなくちゃならない。調整するのに苦労したが、何とか今日のうちに帰れるスケジュールにできて本当に良かった。

 家に着いたらどうしようか。もちろん、事前の連絡なんてしていないから、できるだけ驚かせてやりたい。そうだな、そーっと車から降りて、何食わぬ顔でチャイムを鳴らすのなんてどうだろう。チャイムの音を聞いたハニーは、きっとこう思うはずだ。

「クリスマスなのに家族をほっぽり出して、よそのおうちに何の用?」

 そうして怪訝そうな顔でドアを開ける。私の顔を彼女が見て、目と目があった瞬間、一体どんな反応をするだろうか。ゾンビと出くわしたみたいに叫ぶ? 幸運なことに生きて帰ってくることができたし、眼球だって飛び出ちゃいない。だが、確かに少しばかり寝不足で、顔色は悪いかもしれないな。もし彼女がそんな風に叫んだなら、無事くっついたままのこの両腕で、思いっきりハグしてやろう。

 その後は、そうだな。ハニーの叫び声で玄関におびき寄せられてきた愛しのファミリーに、まずはキスとハグのプレゼントをする。去年はクリスマスどころか感謝祭にだって帰ってこられなかったから、丸々二年分の愛を込めて、ひとりひとりに挨拶するんだ。そうして、全員と再会した後は、この車のところまで呼ぶ。家族全員が揃ったところで、後ろに積んであるプレゼントの山をお披露目だ。きっとみんなを笑顔にできると信じている。

 今年は、最高のクリスマスにしよう。