登場人物
- ナツメ(女):500年続く老舗『薬屋・百草』の看板娘
- リュウガン(男):ナツメの祖父にして『薬屋・百草』店主
- 客(不問):病院を毛嫌いしている体調が悪そうな男
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約10分(2914文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
「漢方薬」というテーマで書いた作品です。某毒味役の薬屋が出てくる作品が好きなので、油断すると持っていかれそうでしたから、何とか引っ張られないように書きました。結果、看板娘が明るく活発な子になりました笑
比較的シンプルかつ分かりやすくオチのついた作品になった気がします。楽しんで演じていただければ幸いです。
本文
◇マスクをした人物が咳き込みながら木造の店に入る
SE:足音
客「けほっ、けほっ」
SE:ドアがきしむ
SE:ドアベル
客「けほっ、けほっ」
◇遠くから少女の声
ナツメ「あっ、お客さんかも! わたし出るね!」
◇足音が近づいてくる
SE:何かにぶつかる音
ナツメ「きゃっ! ……ああもう、ここも整理しなきゃ!」
SE:足音(近づく)
SE:のれんをくぐる
ナツメ「あっ、こんにちは! すみません、お待たせしました。はじめましてのお客さんですね。今日はどうされました?」
客「あ、あの……」
ナツメ「ああ、いきなりこんな子どもが出てきてびっくりしますよね! ここ、おじいちゃんのお店で。手伝ってるんです、わたし」
客「あ……なるほど。いやっ、その、大丈夫……ですか?」
ナツメ「へ? 大丈夫って?」
客「いやその、大きい音が、したもので……」
ナツメ「あ! もしかしてさっきの聞こえちゃってました? すみません騒がしくって……おじいちゃんが世界中から薬を買い付けているので、荷物がいっぱいで……って、お客さんに言うことじゃないですよね!」
客「世界中からですか……けほっ! けほっ!」
ナツメ「だ、大丈夫ですか? ちょっと待ってくださいね」
SE:食器の音
SE:お湯を注ぐ
ナツメ「はちみつしょうが湯です。苦手じゃなかったら、どうぞ」
客「え、いいんですか? けほっ!」
ナツメ「はい、もちろん! 良かったら、そちらの椅子に座っててください。ちょっと、おじいちゃんを呼んできますから」
客「ありがとうございます。……あ、おいしい」
ナツメ「良かった! じゃあ、少しだけお待ちください」
SE:のれんをくぐる
SE:足音(遠ざかる)
SE:お茶をすする
SE:椅子がきしむ
客「(ほっと息を吐いて)……良い店だな。期待できそう」
◇店の奥から少女の声
ナツメ「――そう、はじめてのお客さん。咳が出るみたい。風邪かなあ? ……うん、そうだよね、先入観はよくないよね。……はーい。今日も勉強させてもらいます」
SE:足音(近づく)
SE:のれんをくぐる
ナツメ「あっ、お待たせしました! おじいちゃんを連れてきました」
リュウ「これはこれは、すみません、遅くなりました。店主のリュウガンと言います。こんな店まで、はるばるようこそいらっしゃいました」
ナツメ「あっ、わたし名乗ってないや! 孫のナツメです!」
客「あっ、その、ご丁寧に……私は、その……なんといいますか……」
リュウ「ああ、いいんですいいんです。お客様のことは無闇に詮索しないのが、この店のやり方ですから。おかげさまで、細々と五百年、やらせてもらっています」
ナツメ「おじいちゃんのおじいちゃんの、そのまたずーっとおじいちゃんの頃からやってるんですよ!」
客「五百年……それはすごいですね……噂になるわけだ」
ナツメ「噂? ですか?」
客「ああ、いえ。どんな病気も一目で見抜いて、ぴったりの処方をしてくれる薬屋がある、と。まあ、そんな話を耳にしたものですから」
リュウ「それはそれは、なんだかお恥ずかしい。少々尾ひれのついた噂のようですね」
ナツメ「そんなことないでしょ。おじいちゃんの観察眼は本物だもん! ――お客さん、安心してくださいね? ただの謙遜ですから」
客「そっ、それでは! その、本当に、見ただけでお薬をいただくことはできるのでしょうか? 実を言いますと私……人に触れられるのが極端に苦手でして。普通の病院でされるような診察は、その、嫌なんです」
リュウ「ふむ。なるほど、そうですか」
ナツメ「そういうことなら任せてください! ね、おじいちゃん?」
リュウ「ええ、まあ、できる限り力を尽くしましょう。――少々、失礼します」
SE:のれんをくぐる
SE:足音(遠ざかる)
客「あ、あの、リュウガンさんはどちらへ……?」
ナツメ「調合室です。お客さんのための薬を煎じに行ったんだと思います」
客「え! もうですか! けほっ! けほっ!」
ナツメ「あっ、大丈夫ですか! はちみつしょうが湯、おかわり入れますね」
SE:湯飲みを置く
SE:お湯を注ぐ
SE:お茶をすする
客「――すみません、まさか今のやりとりだけで見抜かれていたとは思わず、大きな声が出てしまいました。それに、おかわりまでいただいてしまって」
ナツメ「気にしないでください。それより、おじいちゃん、すごいでしょう?」
客「ええ、本当に。あとはこれでしっかり効いてくれれば――あっ、いえ! リュウガンさんの腕を疑うわけではないんですが」
ナツメ「あはは! はじめてですからね。仕方ないですよ。――でも、大丈夫です。おじいちゃん、視えるので」
客「視える?」
ナツメ「ええ。体の流れっていうか、調和っていうか……とにかく、どこの調子が悪くて、どう改善すれば良いかが、分かるんです」
客「病気の原因が視えるんですか?」
ナツメ「いえ、原因が分かるかと言うとちょっと違うみたいで。わたしも、まだ感覚は掴めてないのでうまく言えないんですけど……」
SE:のれんをくぐる
リュウ「症状や原因に目を向けるのではなく、その人そのものを視るのです」
ナツメ「おじいちゃん!」
リュウ「お待たせいたしました。こちらが、お客様のための薬です」
客「あ、ありがとうございます。……それで、人そのものを視る、とは?」
リュウ「うちの薬は、大陸で培われた薬学が由来でしてね。薬師が対するは病ではなく人、というのが基本的な考え方なのです。たとえば、私とあなたでは、体の大きさも食事の好みも、体質だって違うでしょう? 私と孫なら、そもそも性別からして違う。であれば、同じ薬を同じだけ口にしたとしても、効き目は違ってくるのが道理です。それを見極め、その人を健康な状態に戻す。それが、わたくしどもの目指すところなのです」
客「なるほど」
リュウ「それに、咳が目立っているからと言って、それだけが不調ではありませんから。調子が悪いというのは、色々な要素が絡み合っているものです。私は、それをできるだけ十全に近づけるために薬を調合しております。――どうか、お客様の調子がよくなりますように」
SE:ドアベル
SE:足音
◇客は足を止め、振り返る
客「『薬屋・百草』か……また調子が悪くなったときは、お世話になろう」
SE:ドアベル
ナツメ「お大事になさってくださーい。……ふぅ、あのお客さん、咳、つらそうだったね」
リュウ「そうだな。特に、胸のあたりがよどんでいた。おそらく、この星の空気が合わなかったのだろう」
ナツメ「この星の? ……ふーん。病院の診察を嫌がっていたから、もしかしてそうかな、とは思ったけど、やっぱりあの人もそうなんだ?」
リュウ「ああ、<外>から来た人だね」
ナツメ「そっかぁ。見た目は完全に私たちと一緒なんだけどなあ。みんなうまく化けるねぇ。おかげでお客さんはいっぱいだから嬉しいけど、こんなにたくさんいるとは思ってなかったよ」
リュウ「まあ、それだけこの星が良い星なんだろう。壊さないよう、大切に暮らしていかないとな」
