井戸端(男1人:男1人)

登場人物

◆職人:井戸掘り職人。

◆店主:井戸の修理を男に頼む。辺鄙な所で、飯屋をやっている。井戸が壊れて、休業中。

※女1人:男1人バージョンもあります。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約12分(約3500文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

あらすじ

辺境に佇む小さな飯屋。水源を失い休業中の飯屋の店主は、井戸職人に修理を依頼する。互いの過去が語られるなか、突然のモンスターの襲来をきっかけに明かされる“ただ者ではない素顔”。笑いと共感に包まれた異色の邂逅譚。

【1】 店主:
……どうだ?
直りそうか?
それが直ってくれないと料理が作れやしないんだ

【2】 職人:
あぁ、なんとかなりそうだが……
この井戸の壊れ方、老朽化にしては
なんだか……

【3】 店主:
「あんた、体が傷跡だらけだな?
井戸掘りの仕事って、そんなに危険なのか?

【4】 職人:
あぁ……まあ、ちょっとな……

【5】 店主:
「井戸掘りの前は、何をやってたんだ?
……あー、すまん、すまん。
余計な詮索だった。
客に、いろいろ尋ねるのは、野暮っていうもんだよな……

【6】 職人:
俺は、客じゃないからな。
いつもは掘る側で掘られ慣れてはないが…なんて……
おぃ、これは笑ってくれ。井戸掘りジョークだぞ。
まぁ、しかし、なんだ? あれだなぁ?
物好きなんだな。こんな所に飯屋を開くなんて……

【7】 店主:
いやいや、ここはダンジョンと町の境界線だから、お客は結構来るんだぜ?
とゆーか
あんた……
冒険者じゃないのによくここまで来れたなあ?

【8】 職人:
まぁ…な。
うーん……にしても、ここ飯屋だよな? 
なんで薪が無いんだ? 
普通は積んであるもんじゃないか?
地下室でもあるとか?
んなわけねえか。こんな小さな飯屋に

【9】 店主:
……薪あつめんのも、こんな所だと手間でな
ちょっとした工夫を……
……ッて、 そんなことどうでもいいだろうがッ!
お客のためにも、早く直せよ! 
食料だけじゃなくて
ここの井戸は
大事な水の補給ポイントなんだからな!

【10】 職人:
……水がねえのは、シャレになんねえな……

【11】 店主:
『渇き』ってのは地獄だ

【12】 職人:
ああ……水が無いのは、何よりも恐ろしい……

【13】 店主:
……わかるぜ

【14】 職人:
昔……ある砂漠で迷った。それだけだった。
食料はあったが、水が尽きた……
もうろうとなって
あっという間に立てなくなっちまった

【15】 店主:
……残酷だよなぁ、そういうのは……

【16】 職人:
……服には
白いザラザラが浮いてきていると思えば
汗が塩になったものだった

と、 俺も昔はまぁ… 実はなァ 結構アレな やっべえモンスターもやれる狩人だったんだが 渇きの前じゃ 一般人と何ら変わらねぇ…気合いだけじゃなんともならないもんだった……

【17】 店主:
だからか、こんなとこまで来れたのは…

【18】 職人:
戦って死ぬんじゃなくて、こんなふうにみじめにゆっくり死ぬのかと思ったら
泣けてきたんだが、泣いてるはずが水分が体にないからな。涙が流れなかった、

【19】 店主:
……でも、あんた
今、ここにいるよな。どうやって助かったんだ?

【20】 職人:
……猿さ

【21】 店主:
猿?

【22】 職人:
日が陰ってきたとき
猿がやってきて、俺の荷物を漁りだした。
涙すら出ない状態だったからな
もちろん追っ払う力も出なくて、
ぼんやり見てるしかなかったんだが、大事な塩肉を食べられだしてなぁ……俺の大事な酒のツマミが……って何にも出来ないくせに思ったんだ

【23】 店主:
はっはっは! この期に及んで、酒のツマミの心配とは傑作だな

【24】 職人:
まあ、頭がおかしくなってたのかもしれないなぁ。
ただな、その時、猿がいるってことは、水場があるんじゃ? って気づいて。
しかも奴らは塩肉なんか食ってやがる。
てことはだっ

【25】 店主:
っ喉が渇いて、水が飲みたくなるッ!!

【26】 職人:
おぅよ!
猿は、口を開けてハアハアしだした。
これが、最後のチャンスだって
俺はどこから出したかわからん最後の力を振り絞って、猿を追いかけ、オアシスに辿り着いた!

【27】 店主:
危機一髪ッてことか!

【28】 職人:
……それ以来、この仕事をするようになって
狩人はすっぱり辞めた。
お陰で、水だけは困らねえし、ちったぁ人様の役に立つってぇーもんだ……
ん? 
な、なんだッ!?

(大音響と、ドラゴンの鳴き声)

【29】 店主:
まったく……
一応、結界張ってるんだが、ときどき破ってくる奴がいてなー……困った野郎たちだ。
井戸をさらに壊されたりしたら
たまらんな……ょし……っと

【30】 職人:
ぉ、おい! あれ、ドラゴンじゃねえかッ!

【31】 店主:
……光の神レクスラディア
我が槍となりて、敵を貫けッ!

(轟音)

【32】 職人:
…(店主と瞬殺されたドラゴンを見比べ息を呑む)

【33】 店主:
……ふぅ、ドラゴン討伐成功っと。
これで当面、肉料理の材料に事欠かないな。
ただこいつ、捌くの面倒なんだよなぁ……(ため息)

【34】 職人:
……あ、あんた、飯屋の前は何やってたんだよ?

【35】 店主:
ん?

【36】 職人:
それに、こんなとんでもない量の肉、保存できるわけがないだろッ!

【37】 店主:
あぁ、そこは氷の精霊を召喚してだな……

【38】 職人:
(額に手を当てて目を閉じて言う感じで)
ちょ、ちょっと待て……まさか、あんた、食材を煮たり焼いたりするのも……

【39】 店主:
肉を消し炭にしないくらいに、火炎魔法を調整するの、結構、大変だったりするけどなあ、問題あるか?

【40】 職人:
おいおい!
待てよ、な、ちょっとまて。
ドラゴンを瞬殺できるほどの魔法使いが、なんだって、飯屋なんかやってんだ?

【41】 店主:
…………あんたと同じだ……

【42】 職人:
俺と同じ?

【43】 店主:
「ある地下の深い所のダンジョンで仲間と一緒に迷いに迷ってな。
狭い地下迷宮の中では、得意の爆炎も使えやしない。
その上、強力な呪いがかかっていて、
攻撃や防御以外の高度な魔法は使えなかった。
ぁ、ルート探査とか、テレポートとか
そういう魔法だ。
だから
襲ってくる奴を、凍らせてはしのぐしかなかった。
熱と冷却の力を操れたから
結露を利用して水だけはなんとかなったんだけどよぉ……
食料が……な…
運が悪かったのか何なのか
敵がアンデット系……つまりはゾンビやらスケルトンばっかりで食べるものがなかった…

【44】 職人:
あ゛ぁー(同情の感じ)

【45】 店主:
戦いで負けたっていうより、飢えに負けましたって感じで、俺以外全滅。
こっちがアンデッドどもの食料になっていったのさ

【46】 職人:
……地獄絵図だな。よく助かったもんだ

【47】 店主:
俺の方は
やっぱり運に見放されてたのかもしれないな
ラッキーなことは無くて、もう最後は力業さ。
あんたの仕事の逆。掘り上げたんだ……

【48】 職人:
掘り上げたぁ?

【49】 店主
「迷宮の壁を上へ上へ掘っていってな
攻撃魔法で崩して、崩落した瓦礫は防御魔法で跳ね返してってのを、延々繰り返したわけさ。
仲間は全滅して、フレンドリーファイヤーの恐れも無くなってたってのぐらいは救い?ゃ、よくない言い方か?
まぁ、なんかそんな感じで

【50】 職人:
地下迷宮の深い所と言ったよな? 
しかも魔法を弱める仕掛けのある所だろ? 
まったく……何千スペルの呪文を唱えたんだ……
考えたくもねえ作業量だな(ため息)

【51】 店主:
嘘偽りなく血を吐きながらの脱出だったな(ため息)
それで生き延びて今ここにいるんだが、
食べられてく仲間をみたりなんだりしたら
いろいろ嫌になっちまったつーのもあるし
『もう、ひもじい思いしたくねえッ!』
って思って飯屋を開いたわけだ。
本当に困るぐらい腹ぁ空かせた奴がたどり着けて
喜んでくれるような場所でな

【52】 職人と店主:
……(二人とも笑う)

【53】 職人:
……お代はいらねぇや。
あんたの心意気に敬意を表したぃ……

【54】 店主:
おいおいッ!
そういうかっこの付け方するやつぁ、俺は、嫌いだね!
お代は、ちゃんと取れっつーの!
お互い
客から大金ふんだくれるような商売じゃないだろ?

【55】 職人:
……あんたには、かなわねえなあ(笑う)

【56】 店主:
な、それより修理が終わったら
一緒に飲まねえか?
猿に導かれなくても
ここにはたんまり水分とゆー名の酒があるぜぇ?
お客にはあんまり、こういう過去の話できねえし、お互いの冒険譚、一緒に深掘りしてくってのはどぅだ?

【57】 職人:
……あんた、ジョークは下手なのな。
……まぁいいや。楽しそうだし、塩肉よりよっぽどうまそうだしな
あんたが倒したドラゴン。
けどな、井戸掘りに深掘りさせたら長いからな?
覚悟しとけよ?

★Spetial Thanks 人外薙魔様!