登場人物
- 参拝客(男):相棒をおちょくるのが大好きな男。元八咫烏。
- 神社の主(不問):ツッコミ気質の神。八咫烏。
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約5分30秒(1664文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
「天気」というテーマで書いた作品です。発表月が1月だったのでがっつり季節感を反映しています。
初見のぶっつけ演技と、最後まで読んでからの演技では演じ方が変わるであろう作品です。そのあたり含めてお楽しみください。
本文
SE 石畳を歩く
SE 段差を上がる
SE お賽銭
SE 手を叩く(2回)
参拝客:よう。初詣対応お疲れさん。
(間)
参拝客:お、なんだ? 無視か? この俺がわざわざ来てやったのに。遠いんだぞ、ここ。
(間)
参拝客:……返事がない、ただの社のようだ。なーんで無視するかね。まさか……いや、あいつのことだから寝てる可能性もあるな。全く、寝る必要もないくせに眠るとは、惰眠をむさぼるとはこのことだな。怠惰な奴め。
神社の主:だーれが怠惰じゃ、無礼者。起きとるわ。
参拝客:お、いたいた。良かったー。お疲れお疲れ。
神社の主:疲れなどせんわ、儂は神じゃぞ。永遠不朽の偉大なるこの身に、疲労などあるはずもない。
参拝客:あーすまんちょっと電波が遠いわ。何言ってるか分からん。
神社の主:電波ってなんじゃ!? 神通力で語りかけておるわ阿呆!!
参拝客:え? 阿呆? そりゃまた自己紹介をどうも。
神社の主:……ほほう、お主の耳が遠いのはよーく分かった。ならばお望み通りこうしてやる。神通力全解放!! どうじゃ!!
参拝客:しっかしやっぱここ景色いいなあ。カラスもどきには贅沢すぎねぇ?
神社の主:無視するでないわ! ……全く、おちょくりよってからに。お主くらいじゃぞ、八咫烏たる儂にこんな振る舞いをしてくるのは。
参拝客:八咫烏って言っても所詮は鳥だしなあ。祈ったところで何をしてくれるでもないし。
神社の主:何を言うか! 天照大御神の使いたる儂の力で、ここしばらくは快晴にしてやっておるだろうが! 見よ、この青空! 雲一つない輝きを。
参拝客:儂の力? 所詮は神様からほんの少し譲り受けただけの力だろ? だめだぞー、傲慢は。よくないよくない。めっ!
神社の主:うるさいぞお主! 傲慢ゆえに天界を追放された奴がどの口で言うのじゃ!
参拝客:あー、寒いだろうけど海見たくなってきた。帰りに寄ろうかな。
神社の主:だから無視するでない! お主も元・同胞ゆえに多少は目を瞑るがな、それにしたって行き過ぎとあらば――
参拝客:(カットイン)お、怒ってるのが聞こえた。また神通力の出力上げてくれたんかな。いやあ、しかしこれは本格的にダメそうだ。
神社の主:――ッ! お主……。
参拝客:初詣後の、一番力が溜まってるだろう時に来てこれだろ? 来年には聞こえなくなるな、これ。いよいよ人墜ちも完了かねぇ。
神社の主:お主、お主そこまで――
参拝客:(カットイン)数千年の仲とはいえ、断片的にすら聞こえなくなったらさすがの俺も会話できねぇからなあ。予測くらいはできるかもしれねぇけど。
神社の主:……どうやら冗談の類いではなさそうじゃな。もうそこまで奪われておったか。
参拝客:いやあ、しっかし、せいぜい天気を晴れにする程度の力だと思ってナメ散らかしてたけどよ、そんなんでも、じわじわなくなってくのはちょっとつらいものがあるな。特に、こうやってしゃべれなくなるのがさ。
神社の主:……ふん、儂はむしろせいせいするがな。
参拝客:あーもうマジでめっちゃ遠いわ。でもま、多分せいせいするとか言ってるんだろうな、素直じゃない奴め。
神社の主:うるさいわ! ……まったく、お主にはかなわんの。
参拝客:言っとくけど、俺にお前の声が聞こえないだけで、お前に俺の声は届くからな? これからもおちょくりには来るからそのつもりで。
神社の主:……ふっ、どこまでもふざけた奴だの。まあ仕方あるまい。お主が完全に人と成るのならば、儂は神として、平等に扱うまで。受け入れてやらなくもないぞ。
参拝客:じゃ、また来年。人間としての寿命なんてたかが知れてるけど、ま、せいぜいそれまで頼むわ、相棒。
SE 振り返る
SE 石畳を歩く(だんだん遠くなる)
神社の主:……それまで頼む、か。舐めおってからに。
SE 木が風に揺れる
神社の主:儂とお主の間柄じゃぞ? 死ぬ程度で切れる縁ではないわ。人の世で浄化された魂は、またこの天界に戻ってくるのじゃからな。
(間)
神社の主:待っておるぞ、親友。来年も、この先もな。