登場人物
- 僕(不問):ごく普通の働きたくない社会人
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約3分30秒(970文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
「冬眠」というテーマで書いた作品です。厳しい冬を乗り越えるために眠るのが冬眠ですが、厳しい時代に春は来るのかと思いながら書きました。会社に行きたくない人にお勧めです。
本文
日曜日の夜。というより、日付が変わって月曜日となった、深夜二時過ぎ。
僕は泣きそうになりながら、布団にくるまっている。
「働きたくない……働きたくない……働きたくない……」
早く眠らなければ、という焦りがいつしか労働への拒否反応へと変わって、口からこぼれ落ちる。六時には起きなければならないのに、一向に眠れる気配がなかった。そうしている間にも睡眠時間は刻一刻と短くなり、それがまた、ネガティブな感情へと変わっていく。
ここのところ、日曜日の夜はいつもこうだ。日付が変わる前に布団へ入っても、一向に眠れないまま時間を過ごしてしまう。まるで、眠らなければ明日はやってこないとばかりに、体が意識を手放すのを拒否する。おかげで、一睡もできないまま会社に行くこともしばしばあった。
もちろん、そんな状態が健康に良くないことは僕も分かっていた。仕事にだって支障が出る。幸いにも、今のところ大きなミスはせずに済んでいるが、このまま続けば、それだって怪しい。だからこそ必死に眠ろうとするのだが、眠ろうとすればするほど意識は冴え、現実が浮かび、涙が溜まる。もはや自分でも理由はよくわからないまま、とにかく会社に行きたくないという感情だけが渦巻いていた。
このまま会社を辞めてしまえばどうだろう、という強い欲求が心に浮かぶ。だが、辞めるとして、生活はどうなるというのだ。上がらないどころか、むしろ下がっていく給料に希望がないのは確かだ。だが、そんなものでもゼロよりはマシだ。僕たちは、働くことで生きている。働くことでしか生きていけない。だから働くのだ。明日を生きるために会社に行くのだ。
……そこまでする必要が、どこにあるのかは分からないけど。
――ピピピピ
スマートフォンから、起床時間を告げるアラームが鳴った。布団から顔を出せば、窓の外はまだ暗かった。冬の空には、なかなか夜明けがやってこない。
あんなに眠れなかったのに、いざ布団から出るとなると体が重かった。今になって眠くなってきているような気もする。だが、僕はのそのそと身支度を始める。部屋の中は冷たく、着替えも冷えていて、体から熱を奪う。このまま全ての熱を奪われたなら、僕は会社に行かなくて済むのだろうか。願わくばそのまま、暖かくなるまで眠っていたい。
春は、いつやってくるのだろう。僕は、それを待たずにはいられなかった。