登場人物
- 語り(不問):語り手
- マロリー(セリフなし):船旅の末に海賊の宝を発見するも、船を失い、帰れなくなっている男
- キャプテン・オルカー(セリフなし):オルカー海賊団船長。伝説の海賊
- レヴィ・フリント(セリフなし):オルカー海賊団参謀
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約5分30秒(1622文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
「船」というテーマで書いた作品です。久しぶりに、尺もオチも、思ったように書けたような気がします。キャラ同士の掛け合いはなく、語り手が読み上げる朗読作品です。
短く、分かりやすい作品に仕上がったと思いますので、男性の方も女性の方も、ぜひチャレンジしてみてください。
本文
マロリーを見る者がいたとしたら、みな、口を揃えてこう言うだろう。
彼は頑強な海の男に違いない、と。
事実、マロリーは一日の大半を海辺で過ごしていた。太陽が顔を見せる早朝から、主役の座を月に明け渡す夕暮れ時まで、日がな一日、浜辺にいることも珍しくなかった。その肌は、十分すぎるほどの紫外線を蓄えて黒々と輝いており、また、その手足はたくましい筋肉でごつごつとしていた。さながら鎧のような頑強さだった。
ただ、それが鎧と違うのは、頑強さだけではなく、しなやかさも併せ持っているということだった。彼のその腕は、森の獲物を仕留めるために躍動し、彼のその脚は、海の獲物に追いつくための推進力を生み出した。彼の力を持ってすれば、木の枝を少し尖らせただけの槍は、水陸両用の万能武器になった。しかもそれは、折れてもすぐに代わりを用意できる。
今日もマロリーは、そんな万能武器を片手に、浜辺を歩いていた。
時折立ち止まり、水平線の彼方に視線をやりながら歩くことしばし。島を半周ほど進んだ頃合いで、マロリーは浜辺に、一隻の船らしきものが泊まっているのを見つけた。遠くに見えるそれが視界に入るや否や、マロリーは砂を蹴って走り出す。しかし少ししてすぐに、その勢いは徒歩へと変わった。
遠くにあるように見えたそれは存外近く、また、存外小さな船だった。ちょうど、人ひとりが横になれる程度の大きさだ。マロリーは落胆とともに、年甲斐もなく早合点し、胸躍らせた己を恥じた。
小舟と言って差し支えないそれは、おそらく非常時に使用する脱出用のものだろうと思えた。船上には、人影はもちろん、人骨の類いもない。ただ、いくつかの物品だけが残されていた。塩のこびりついた空の樽が、船上に在っただろう人物の末路を想起させる。こんなにも水で溢れていても、この海に飲めるものは一滴もないのだ。
マロリーは海に向かって手を合わせてから、一応小舟の状態を確かめてみた。触っただけで崩壊しそうなそれは、もう限界が近いことをマロリーに示した。遠洋に出ることはもちろん、近海での漁にも耐えないだろうことは明白で、せいぜい乾かして、火種にするくらいしか利用価値はなさそうだった。
船上にも大したものは残っていなかったが、ふと、マロリーの目に興味深いものが留まった。羊皮紙だ。手に取り、裏返したマロリーは、己の運命に思わず鳥肌を立てた。
“キャプテン・オルカー”
流れるような筆記体で力強く残されたそれは、この羊皮紙が、かの有名な海賊の持ち物であることを示していた。羊皮紙に書かれているのは地図だ。見覚えのある形をした大陸。そこから南西に進んだ沖合に、バツ印が書かれている。
何を示しているかは明白だった。マロリーは震え、天を仰いだ。小舟をそのままに、とぼとぼと、自らが拠点とする洞穴に戻っていく。
やがて、己のすみかに辿り着いたマロリーは、その奥にあるがらくた――かつて、自分がもっと文明的な生活をしていた頃の持ち物と、最初からここにあった役に立たないものたち――の中から、一枚の羊皮紙を取り出した。
それは、先ほど見つけたのと瓜二つの地図だった。唯一異なるのは、右下に書かれたサインだけ。マロリーが持っていたそれには、“レヴィ・フリント”という署名がされている。
その名もまた、とても有名なものだった。なぜならそれは、かの“オルカー海賊団”で参謀を務めた男の名前だからである。
海の男・マロリーはその日、もう海辺に戻ることはなかった。暗い洞穴の中で、この二枚が自分の手元に揃った因果についてじっと考えていた。
地図に書かれているバツ印の場所も、マロリーは知っていた。それは、ロマンを求めたかつてのマロリーが目指し、そして辿り着いた場所だった。
――到着したあの日、急に顔色を変えた海の天気にやられ、雷鳴のもと、帰る手段を失ってから早幾年か。
キャプテン・オルカーの遺産――金ぴかで、キラキラで、しかし何の役にも立たない石たちは、今、マロリーのすぐ後ろにある。
