サロメの結末

登場人物

  • 女:登場シーンによって年齢が異なる
  • 男:登場シーンによって年齢が異なる
  • 秘書(不問):不問

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約8分30秒(2624文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文


<SE> 居酒屋のガヤ

女:あなたの話はわかりました。それでは、お付き合い致しましょう

男:… ほ、ほんとですか? いやぁ、でも…

女:どうしたのですか?

男:失礼ながら、僕はダメ元であなたに告白しました。とても信じられない。まさか本当に付き合えるなんて

女:何もおかしいことなんてございませんわ。あなたが交際を申し込み、私がそれに応じた。それだけのことではありませんか

男:しかし、僕は財産がほとんどなく、頭も良くはない。見た目だって凡庸だ。何もかも完璧なあなたと は、到底釣り合わない

女:何をおっしゃるかと思えば。 財産や見た目など、些細な問題です。私はあなたを気に入っているのですよ。それだけが重要なのです

男:しかし… 。こんな場末の居酒屋にしかあなたをお誘いできないような僕が、あなたと恋仲になれるだなんて。… 見てください。社会から見れば、僕はこの気が抜けたビールのような底辺の存在です。いや、このビールの中で跳ねる一つの泡のごとく、卑小な存在なのです

女:まあ! ご自身を泡に例えるなんて! …わかりました。あなたが二人の愛を疑うのならば、これから私とゲームをしませんか?

男:ゲーム?

女:ええ、簡単なゲームです。どんな状況でも、私を愛すること。それだけでいいのです

男:んん? なんだか要領を得ないようですね。どうにもルールが曖昧で

<SE> 時空が歪む

男:… あれ? なんだか、変な感じだ

女:<効果:エコー> 本当に簡単な話なのですよ。あなたは、これから先、私を愛し続ければそれでいいのです。 もしも、これを破ったら…<効果:フェードアウト>… ええ、それは、その時になったらわかるもの。知る必要のないことですわ

<SE>ブラックアウト

秘書:社長、どうされたのですか? 社長?

男:ん? ああ、すまない。少し眠ってし まったようだ

秘書:社長は働き過ぎですよ。一日くらい休暇を取られてはいかがですか?

男:ハハッ。そうしたいのは山々だがね。そんな暇がないことは、スケジュール管理している君が一番わかってるだろう。… あー、だが、今夜だけはスケジュールを空けてもらうよ。大事な約束があるんだ

<SE>高級レストランのガヤ、食器がカチャカチャ鳴る

男:今日は、来てくれて嬉しいよ。そのドレス、とても素敵だね。ダズクレッセントの新作かな? 君の知的な雰囲気にとてもよく合っている

女:フフ… 。ありがとうござい ます。とてもお上手になられたのですね

男:君とこうして二人で過ごせるなんて、僕は世界一幸福な男だろうね。… ああ、君、シャンパンを持ってきてくれ。… さあ、早速だけど、この前の話の答えを聞かせてもらえるかな?

女:もちろん、お受け致しますわ。 これで、あなたと私は交際相手ということになりますね

男:そうだな… 。嬉しいよ

女:… そういう割りには、あまり喜んでくださらないのですね

男:そう、見えるかい? … とても不思議なんだが、実感がないんだ。自分で言うのもなんだが、僕には金も地位も名誉もある。君は素晴らしい女性だが、僕も君に見合うだけのものを持っているはずだ。これは、とても幸せなことだよ。僕たちはお似合いの恋人同士になれるんだから。… だけど、何かが足りない気がする。決定的な何かが僕たちには欠けているみたいなんだ

女:一つ、聞かせていただけます? … あなたは、私を愛していますか?

男:もちろん、愛してる。… ただし、僕たちの愛には、まだ補足しなければならない何かがあるようだよ

女 :… どうにも煮え切らないようですね。ゲームを続行致しましょう

男:ゲーム? 一体なんのこと…

<SE>時空が歪む

<SE>セミの鳴き声

少年:ふー。あっちー ! こんな炎天下でグラウンド10 周とか、あの体育教師、イカれてやがるぜ! ただいまー

<SE>玄関の引き戸ガラガラ

少年:あ、そっか。 今日は町内会の寄り合いがあるから、母さんいないんだ。 … おお! 俺は自由だ!オッシャア!

少女:何騒いでんの?

少年:うわあああ! ビビったぁ!… いたのかよぉ。何の用?

少女:「何の用?」じゃないわよ。今日、おばさんがいないから、代わりにお昼作りに来てあげたんじゃない。

少年:…頼んでねぇっつの。それ に、お昼作りに来たっていっても、どうせアレだろ?

少女:そう! 当然、手巻き寿司! アンタ、好きでしょ? サイダーも冷やしてるよ!

少年:… まあ、いいけどさ。こっちは腹減ってんだ。さっさと食おうぜ

少女:あ… 、その前に。あの、さ。こない だの話なんだけど

少年:あ、おお

<SE>心臓の音

少女:あの、オッケー…… です

少年:…… え

少女:だから! オッケーだって!

少年:… マジで?

少女:マジで! アンタの彼女になってやるって言ってんの!

少年:いいいい! いやったー ! マジかよ! 俺に彼女ができた!

少女:そうそう。 せっかく彼女になってやったんだから、それぐらい 喜んでくれないとね。 さ! わるくならないうちにゴハン食べよ! … ん? どうかした?

少年:… ん。いや、なんでもない

少女:なに? 気になるから、何かあるなら言って?

少年:ああ、なんて言うかな。… 何かが足りない感じなんだ。なんていうか、俺たちの間にさ、隙間があるっていうか

少女:はあ… 。一応聞くけど、アンタ、私のこと愛してる?

少年:はあ!? 恥ずかしい こと聞いてんじゃねーよ! そりゃあ、彼氏なんだから、どっちかってゆーと愛してる… だろ

少女:アンタっていつも煮え切らないのね。 もういいわ。 ゲームはおしまい

<SE>時空が歪む

少年:え … 。なんだよ、これ。なんか、変な感じ

女:あなたはゲームに負けたのです。 ただの一瞬足りとも、あなたは真に私を愛すことはなかった。よって、罰を与えます。さようなら

男:耳もとで、パチ ン、と何かが弾ける音がした。それっきり、僕の意識は途絶え、真っ暗闇が永遠に続いた。