登場人物
- 俺(男):娘のことが大好きな父親。将来娘が嫁に行くことを想像して勝手に落ち込むタイプ。
- 妻(女):家庭を支える真の大黒柱。
- 小春(女):純真で可愛すぎる娘。
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約4分(1181文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
「プレゼント」というテーマで書いた作品です。12月に発表する作品だったこともあり、直球でクリスマスの話にしました。冒頭のモノローグは、『涼宮ハ●ヒの憂鬱』冒頭のキ●ンからインスパイアされています。
本文
サンタクロース・システム。それは、子育てに悩む大人達が編み出した社会システムである。
世の中の子どもを持つ親たちは、十二月二十四日が近づくと、「サンタクロース」なる老人の存在を我が子に話して聞かせる。クリスマスの夜、奉仕と慈愛の心に満ちた赤服白髭おじいさんが枕元にやってきて、プレゼントくれると吹き込むわけだ。すると当然、子どもは目を輝かせるが、親たちは、そこで大事なルールを付け加える。
「でも、サンタさんは良い子のところにしか来ないからね」
それはまさに、大人ならではの巧みな心理術。まずプレゼントという餌をぶら下げ、欲望をかき立てた上で「欲しけりゃ良い子にしな」と脅すというマッチポンプ的手法だが、その効果は言うまでもないだろう。子ども達は純粋ゆえ、プレゼントが欲しいという純然たる欲望に従って家の手伝いなどをするようになる、という寸法だ。
かくして、サンタクロースという不法侵入罪待ったなしのご老人は、大人の思惑と子どもの夢を背景に、口伝、書物、映像、その他各種メディアを通じて、広く世界中で認知されるに至っている。
さすが大人は汚い、と思っただろうか。思ったあなたは、おそらくまだ子育ての経験がないのだろう。かくいう俺も親歴数年のひよっこだが、それでも言わせてもらえば、これくらい許して欲しいくらいには、子育ては大変である。子どもとは、時にブレーキのない暴走列車だ。それをコントロールし、我が子の身を守り、健やかに育て上げるためには、使えるものは何でも使わねばやっていけないのである。
「……という言い訳を考えてみた」
「帰ってきて早々何の話かと思えば……あなた、やっぱり疲れてるのね。早く寝たほうが良いわ」
「いやだって、いつか小春がサンタの真実に気付いたときに、そのせいで嫌われたら嫌じゃん? だから、正当化する理由付けをしておかないとなと思って」
「自分が気付いたとき、親を嫌いになった? なってないでしょう。まったく、変なところで心配性なんだから」
「小春には永遠にパパ大好きでいてほしいからな! そのためなら万にひとつの可能性でも潰しておかないと」
「はいはい。じゃあそんなあなたにこれを」
「なにこれ?」
「小春が幼稚園で書いたんだって。サンタさんへの手紙」
「へぇ、幼稚園ってそういうこともするんだな。俺のとき、そんなことしたかな……」
「欲しいもの、書いてあるわよ」
「お、たすかる。欲しいもの聞き出すのも結構大変だからなあ。毎回変わったりするし。どれどれ、うちのお姫様は何がほしいのかなっと……」
『さんたさんへ
いつも ぷれぜんとをくれて ありがとう
きょねんの おもちゃ だいじにしてます
ことしは ぱぱの おやすみがほしいです
いつもいそがしいって ままがいってます
ぱぱと あそびたいです』
「最近残業続きだけど、小春の欲しいもの、届けてくれるよね? サンタさん」
「……絶対に有休申請通してくる」