同窓会

登場人物

  • 直樹(男):28歳。ノリがよく明るい性格でお調子者っぽいが根は真面目で熱いところがある。
  • 沙織(女):28歳。快活で人当たりがよく、クラスではカースト上位にいたような人気者だが……
  • 清美(女):28歳。真面目で穏やか。控えめな一面があり悩みなどはため込みやすいタイプ ※セリフが少ないので兼ね役可

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約10分(2978文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

「ジム」というテーマで書いた作品です。「思い出のジャングルジムを目印に感動の再会をする幼馴染み」的なエモいシナリオを書くつもりだったのですが、書いていく内にエッセンスだけ残して全然違うものになりました。

本作は構成として、

  1. 思い出を語るシーン
  2. 小学校にいる理由が分かるシーン
  3. 全ての真相、黒幕判明シーン

となっておりますので、最初は少しエモさも出しながら、エンディングに向かって雲行きが怪しくなっていく演出にできるとよいかと思います。

本文

   SE:スコップで穴を掘る

直樹「はぁ……はぁ……ふう。分かっちゃいたけど先は長いな」

沙織「だね……ちょっと休憩しよ」

直樹「来る途中、コンビニでお茶買っといて正解だったな」

沙織「うん。私、車に取ってくるね。鍵ある?」

直樹「ああ。……ほいっ」

沙織「うわっ! ちょっと、暗いんだから投げないでよ」

直樹「はは、そのわりにナイスキャッチ」

沙織「もー。……じゃあ、取ってくるね」

直樹「よろしくー」

   SE:足音(離れていく)

直樹「ふう。一旦どっかに座るか。えーと……お、あっちに良いのあんじゃん」

   SE:足音
   SE:腰をおろす

直樹「はあ、椅子としてちょうどいいや。しかし懐かしいな、こういう、地面から生えてるみたいなタイヤ。よく馬跳びしたり、上を歩いたりしたもんだけど、なんて言うんだろうな、これ」

沙織「――おまたせー。マジで暗すぎ」

直樹「お、早いじゃん。おかえり」

沙織「場所移動するなら移動するって言ってよ。戻ったらいなくて、一瞬焦ったんだから」

直樹「いや移動ったってすぐそこだろ。まさか、移動するぞ! って大声出すわけにもいかないし」

沙織「それはまあ、そうだけど……あ、はいお茶」

直樹「サンキュー。……っぷはあ、生き返るぅ!」

沙織「バカうるさい! 大声出すわけにいかないって言ったばっかでしょ!」

直樹「ははは、悪い悪い。つい」

沙織「私まで大きい声出ちゃったじゃない、まったく」

直樹「お茶で良かったな。ビールだったらこの倍は声出てた」

沙織「うっさいおっさん。……はあ、まあいいや。私も座ろ」

直樹「おう。懐かしいよな、これ」

沙織「タイヤ跳び?」

直樹「あ、タイヤ跳びっていうのかこの遊具」

沙織「いや知らないけど。私はそう呼んでたってだけ」

直樹「なるほどね。俺はちゃんと呼んだことなかったんだよなー。『地面に半分埋まったカラフルなタイヤ』だと思ってた、ずっと」

沙織「あはは、まあそのとおりではあるけどね」

直樹「あの鉄棒とかもさ、覚えてるか?」

沙織「逆上がりの練習したやつでしょ、覚えてる覚えてる。三年生くらいの頃だっけ」

直樹「そうそう。久々に見たら、めちゃくちゃ小っちゃくなっててビビったわ」

沙織「鉄棒が小さくなったんじゃなくて、私たちが大きくなったんだけどね」

直樹「それなー。雲梯なんて手を伸ばしただけでついちまうし、ジャングルジムなんて狭すぎて、もう中を通れる気がしねぇ」

沙織「あら、ジャングルジムのキングと呼ばれた男が、随分と情けないこと言うじゃない? あんなにかっこよかったのに。モテモテだったのよ、クラスだけじゃなく、学年中の女子から」

直樹「やめろよ恥ずかしい」

沙織「ほんと、キラキラしてたね、あの頃は……」

直樹「そうだな……」

沙織「はぁ……なんでこんなことになっちゃったんだろ」

   SE:木が風に揺れる(フェードアウト)※回想シーンへの移行

直樹『おい清美! 待て! おい!』(フェードイン※アドリブで口論をしていると回想への移行が分かりやすい)

   SE:ガシャーン(グラスが割れる音)

清美『あんたのせいなんでしょ! あんたが直樹を奪ったから!』

直樹『落ち着け清美! 沙織とは本当に今日、たまたま会ったんだ!』

沙織『そうよ! 私は清美とも直樹とも、十年以上連絡なんてしてなかった! ほんとにさっき、たまたま見かけたから……』

清美『うるさい! うるさいうるさい! 殺してやるう!!!!』

直樹『あぶねぇ沙織!!』

   SE:殴打 ※回想シーン終了

沙織「店で再会したときは、こんな偶然奇跡だ、って嬉しかったのになあ」

直樹「ほんと、ごめんな。俺のせいだ」

沙織「ううん、そんなことない。私が呑気に声なんてかけなきゃよかったのよ。懐かしい顔見つけて、舞い上がって、勢いで突っ込んじゃって……空気読めてなかった」

直樹「いやそりゃ無理だろ。偶然再会した幼馴染みが別れ話の真っ最中だった、なんて、咄嗟に分かるわけない」

沙織「でも話しかけてすぐ、なんかおかしいなとは思ったの。あそこで察して帰れば良かった。それをのこのこ、ふたりの家までついていっちゃったから……」

直樹「それを言うなら、誘ったのは俺だ。自分で別れを切り出しといて情けないけど、ふたりだと気まずかったからつい逃げちまった。あれじゃ、俺と沙織がグルだと思われても仕方ねぇよ。そのせいで、清美は俺が、沙織と付き合うために自分を捨てたんだと誤解して……」

沙織「直樹のせいじゃ……! ――いや、もうやめよ……。弱音吐いてごめん。覚悟決めたはずなのにね」

直樹「こっちこそ、ごめん。そんで、今さらだけど、ほんとに良いのか……? 清美を殴って止めたのは俺だ。沙織は、俺達に巻き込まれた被害者でしかないんだぞ」

沙織「ほんとに今さらね。死んでるって分かったとき、小学校に埋めようって提案したのは私よ。その時点で共犯じゃない」

直樹「承諾したのは俺だろ。家から近いし、廃校だから人も来ないしな。沙織は、気が動転してたことにでもすればいい。いや! 実際動転してたはずだ。そのせいってことにして……いやそもそも、状況から言って正当防衛になるかもだし、今からでも警察に行けば――」

沙織「それはだめ。死亡時刻から時間が経ちすぎてる。これまで何をしてたんだって聞かれるに決まってるわ。そしたらどう説明するの?」

直樹「それは……でもそれなら、俺ひとりが隠蔽を企んだことにすれば沙織は――」

沙織「私に今さら、知らん顔でニュース番組を見ろって? 幼馴染みふたりが痴情のもつれで殺し合ったってニュースを? 冗談じゃないわ! それに、結果的に殺しちゃったとはいえ、直樹は私を守ってくれたんだもの。ひとりで刑務所になんて入れらんない。直樹が自首するなら私もする。私と直樹はもう、運命共同体よ!」

直樹「沙織……」

沙織「……一回、車で落ち着いてきたら? 私は、直樹が決めたならどっちでもいい。埋めるなら続きを手伝う。自首するならついてく。夜明けまでは待てないけど、まだ余裕はあるわ」

直樹「分かった……ありがとう、沙織。ちょっと頭を冷やしてくるよ」

   SE:足音(離れていく)

   ◆間をあける

沙織「……ふう、これで完璧かな。直樹の性格からして、非のない私と一緒に自首はできない。私のことを思いやって、つい迷っちゃったけど、これで決心したでしょう。戻ってきたら、清美の死体を一緒に埋めて、それで終わり。完全犯罪成立っと。この廃校に誰も近づかないのは調査済みだし、そもそも清美の捜索願が出されることはあり得ないしね。だって……出す人がいないんだから」

   SE:パトカーのサイレン(遠くで聞こえて、そのままどこかにいく)

沙織「(パトカーに一瞬息を呑むが、過ぎ去ったことに安心して)……ふふ、あはは! ほんと、思った通りに動いてくれたわ。唯一の親族だった母親が死んだと思ったら、身に覚えのないミスで会社をクビ。それを言い出せないでいるうちに、同棲している彼氏にもフラれたんじゃ、不安定になるのも仕方ないわよね、清美? 分かるわ、あなたのことは。……ぜんぶ、手に取るように、ね。幼馴染みだもの」

   SE:スコップを土に突き立てる

沙織「さ、そんな幼馴染み想いの沙織ちゃんは、健気にひとりで穴掘りを再開しましょうか。埋めるのが楽しみね。あなたの顔に土をかけながら言ってやるの。『この罪はふたりで背負って生きていくから!』って。それで直樹は、私のものになったも同然よ」