pray

登場人物

  • 語り(不問):兼ね役可
  • セイカ(女):幼い頃は4〜6歳、通常時は15歳。中学三年生
  • レン(男):13歳。中学一年生
  • 神父(男):30歳。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約12分0秒(3617文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

<BGM>思い出の中

セイカ(幼):神父様ぁ、あの人は何してるの?

神父:あの人はね、お祈りをしているんですよ

セイカ(幼):お祈り?

神父:そう。神様とお話したり、お願いしたりしているんですよ

セイカ(幼):神様にお願いしたら、なんでも叶えてくれるの?

神父:そう。神様に願いが届いたら、きっと叶えてくれるでしょう

セイカ(幼):そっかぁ。じゃあ、セイカもお願いする! お母さんが、早くセイカに会いにきてくれるように! ふふふっ、ふふっ

<BGM 消音>

セイカN:それから、お母さんが私を迎えにくることはなかった

<SE>目覚まし時計

セイカ:ん、んん、(目覚まし時計止める)…あー…… 、久しぶりに昔の夢見たな。 …… あの人は昔から嘘つきだ

<SE>ベッドが軋む音

セイカ:あー、胸糞悪いなぁ〜。今日は学校も休みだし、もう一眠りするかぁ〜。<あくび>ふぁ〜あ。

<SE> ベッドで寝返りを打つ音

レン:んん〜。もうちょっと寝かせてよ〜

<SE>ベッドでドタバタ

セイカ:え!? え、ちょっと! ええ!? …… あんた、誰よ?

<SE> 早朝の鳥のさえずり

<SE>打撃音

セイカ:…… なるほど、あんたは私の遠い親戚で、家庭の事情でしばらくウチで預かることになったわけね。

レン:そうだよ! 痛ってぇな! いきなり殴りやがって!

セイカ:乙女のベッドに入り込む変態には当然の報いよ。まだ子供だからって許さないよ

レン:悪かったよ! 眠かったし、他に寝れそうな場所なかったんだよ! …… まあ、遠い親戚っつうか、俺とお前は従兄だけどな。ほら、お前の父さん変わりもんだろ? あんまり親戚付きあいしないから<カットイン>

<SE>早朝の鳥のさえずり

<SE>打撃音

レン:だから! なんで殴んだよ!

セイカ:神父様の悪口は許さない

レン:なんだ。ファザコンかよ

セイカ:あんた、もう一回殴られたいわけ? …… あ、神父様からラインきてる。なになに

神父N:『急に中央から招集をかけられたので、今日は夜まで帰れません。いつも通り、教会でミサはやるので、準備しておいてもらえますか。あと、レン君もミサに参加してもらうので、案内をお願いします』

レン:ん? ミサってなんだ?

セイカ:ん〜。まぁ、私も詳しいことはわかんないんだけど。あんたは黙って神父様のありがたいお説教を聞いてればいいのよ

レン:へいへい。そうですかー

セイカ:教会には夕方頃に出発すればいいから。それまで適当にくつろいでて

<SE>鳩時計の音

セイカ:んんー。(伸びをしている)そろそろ出発しますかー

レン:なあ、腹減ったんだけど

セイカ:ちゃんとお昼は食べたでしょうが

レン:成長期なんだよ。仕方ないだろ

セイカ:しょうがないかぁ

<SE>コンビニのドア開閉音

<SE>『ありがとうございましたー』

セイカ:ほれ、食べな

レン:ありがと。…… なんでアメリカンドック?

セイカ:今、キャンペーン中だから、二本買うと半額になるのよねー。私の経済的事情を鑑みるとアメド以外の選択肢はないわけ。おごってやってんだから、文句ないよね?

レン:文句ないから、その拳を下ろしてください。…… 教会までは、どのくらい歩くの?

セイカ:ここまで来れば、もうすぐよ。ほら、あそこに教会の屋根が見えるでしょ?

<SE>扉が軋みながら開く音

セイカ:はぁあー。冷えるー。なんで外より寒いのよー。とりあえずストーブ点けるから、あんたはその辺に座ってて

レン:ああ

<SE>ストーブ点火(カチカチカチ、ボン)

セイカ:ふー、一段落、一段落。ん? あんた 震えてるじゃない。大丈夫?

レン:別に。平気だよ

セイカ:えーと、毛布、毛布。毛布はどこだー? お、あった。ほれ、これ使っていいよ

レン:いらねえよ。こんな汚い毛布

セイカ:(怒声)ああん?

レン:いや、使わせていただきます。……あ、あったかい

セイカ:でしょ? その毛布、私のお気に入りなんだ。……うー。やっぱまだ寒いな。私も中に入れてよ。

<SE> もぞもぞ(衣擦れの音)

レン:え! いや! 近いって!

セイカ:子供のくせに、なに恥ずかしがってんのよ

レン:あのなぁ。だいぶ子供扱いしてくれてるけど、俺はもう中一だからな

セイカ:え! 嘘! 私と二つしか違わないの!? ……あらまぁ、随分若く見えるのねぇ

レン:ほっとけよ

セイカ:<あくび>ふぁ〜あ。なんか眠くなっちゃった。ちょっと寝ちゃおっかな。

レン:こんなとこでよく寝れんな

セイカ:この毛布にくるまったら、すぐ眠たくなっちゃうんだよねー。……さぁて、そろそろ聞いちゃうんだけどさ。あんたさぁ、なんでウチに預けられたの?

レン:…… 別に。関係ないだろ

セイカ:うん。関係ないかも。……私さぁ、ちょうどクリスマスの夜に、親に捨てられたんだよね。この教会でさ、この毛布に包まれた状態で。神父様が、教会に入るときに人影を見たって言ってたから、私を捨てた後、誰か来るまで待ってたんだろうね。私の親は。子供を捨てるなんて、ろくでもない親だとは思うけど、捨てられたのは赤ちゃんの頃だし、お陰で神父様と一緒に暮らしてるわけだから、親を恨んでもないし。別に、産んでくれてありがとう、とも思ってないけどね。今となっては、マジ、どうでもいい。だからね、私とあんたは、本当は従兄でもなんでもないわけ。血のつながりのない他人なんだから、あんたがワケありなんだったら、気楽に話してくれてもいいよ。…… あんたが今まで、そんなに幸せに過ごしてきたわけじゃないってのは、あんたの目を見てれば、なんとなく分かるけどね

レン: ……なんだよ。わかったような事、言いやがって……

セイカ:あんたって、ホントに生意気ね

レン:あのさ、……

<BGM>切ない音楽

<BGM>クリスマスっぽい音楽

神父:さあ、二人とも、起きてください

レン:…… ん、……ああ、いつの間にか寝てたのか

神父:ふふ。二人とも、まるで姉弟のようですね

レン:……セイカのやつ、お節介っていうか。初対面でよくあんなにズケズケ言えるもんだよ

神父:それがその子の良いところなんですよ。これから仲良くしてあげてくださいね。……ほら、セイカも起きてください

セイカ:<寝言風>……神父様ぁ、大好きぃ……

神父:おや、これは嬉しいですね。ですが、寝たフリはやめて、姿勢を正してください

セイカ:…… イジワル……

レン:くくく、セイカ、寝たふりバレてやんの

セイカ:レン! うるさい!

神父:ふふ。本当に姉弟のようですね。…… それでは、始めますよ。……本日は、祈り、についてお話ししましょう。人は困難に巻き込まれたとき、不安に悩まされるとき、不幸が訪れたとき、 そんなときに、神に祈りを捧げます。神は万能であり慈悲深くもありますが、私たちの願いをなんでも叶えてくれるドラえもんと は、ちょっと違います。神に願えば即座に全てが解決する、という訳ではないのです。神は私たちに試練をお与えになります。親友の裏切り、家庭崩壊、いじめ、さまざまな犯罪、戦争。それらは、個人の力で解決できることもあれば、どうしようもないこともあります。そんなとき、私たちは祈るのです。自分の無力さ、世の中の理不尽さ、大切なものを失う恐怖、人の願いの儚さ、それぞれを胸の内に込め、祈りとして形に残すのです。それらは各々の心に刻まれ、あなたたちを成長させてくれることでしょう。祈ることは救いではありますが、解決ではありません。祈ることで救われるのは精神であって、現実ではありません。祈ることは現実と向き合うことであって、現実から逃げることではありません。あなたたちが祈り、そして成長していく ことを願っています。…… それでは、みんなで祈りましょうか

セイカN:クリスマスの夜。街外れの小さな教会には橙色の暖かい光が灯っていた。教会の中には祈りを捧げる三人の家族の姿があった。敬虔な神父は子供たちの平穏を祈り、可憐な少女は新しい弟の平穏を祈り、生意気な少年は新しい姉の平穏を祈った。彼らの祈りは果たして天に届くであろう。彼らが願うものは、すでにそこにあるのだから。