登場人物
- あたし(不問):船頭
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約5分(1423文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
「焚き火」というテーマで書いた作品です。こういう、謎の男が一人語りするお話は結構好きだったりします。
イメージはとある有名な落語から。それっぽい雰囲気で語ると良い感じになるのではないかと思っています。
本文
おや、おやおやおや。これは大変だ、びしょ濡れではないですか。
ささ、どうぞこちらに来て火にあたってください。ほぅら、パチパチ、パチパチとよく燃えておりますでしょう? 暖まりますから、遠慮なく、どうぞどうぞ。
本当は、お茶の用意でもできれば良かったんですけどねぇ。それか、肉か野菜か……ああ、お芋なんかも良いかもしれません。焼き芋、お好きですか? あたしもなかなか食べる機会はありませんがね、最近は特に、あまーいお芋が生まれていると聞きます。人間の知恵ですねぇ。目に付いたものを、どんどんどんどん、より良くしていく。
好き放題やった結果、やれ遺伝子操作が問題だ、環境問題だ、なんだと騒がれたりもしますけれども、あたしとしては、それも含めて自然の摂理だと思いますけどねぇ。世の中の生き物を見回したって、環境に配慮して生きてるやつぁ、ひとつもいませんよ。生き物が生きるってのは、そういうことじゃありませんか? どこかに必ず、自己都合が出てくる。自己都合で命を奪い、なわばりを広げ、欲望のままに過ごすってのが、生きるってことだと、あたしゃ、思うんですけどねぇ。
そもそも、世の中には色々と問題がありますけれど、一体何が問題なんでしょ。例えば、今、こんな風に燃えてる炎。ものが燃えて、炎という現象が起きると、酸素が消えて二酸化炭素が出てくる。そいでもってそれがたくさん出ると、温室効果とやらを生んで、地球の温度が上がる。地球の温度が上がると、氷が溶けて海面が上がって、陸地が沈む。はたまた、環境が変わって、動植物が減ったり、異常気象が起きたりする。……それの何がいけないんで?
長い星の歴史を見れば、今より気温が高かった時期も、低かった時期もあって、生態系だって、陸地の形だって、今とは全然違ったではないですか。その事実を、人間は知っているはずなのに、どうして今の変化は、問題になってしまうんでしょ。それって結局は、自分達の住む陸地が減ったり、自分達の食糧が減ったり、大雨やなんかで被害を受けたりするのが嫌だから、問題だって言っているだけのような気がしますけどねぇ。それも含めて、結局は自己都合。実際はどこにも問題なんてなくて、ただ星は、これまでもこれからも、変化していくだけだと思いますけどね。
……ああ、いやいや、すみません。ついついペラペラと、余計なことを話しちまいやした。この話もまた、環境問題なんてどうでもいいっていうあたしの自己都合に過ぎません。星を大事にしようって考えを否定する気はないんですよ。あたしがそう思うってだけなんです。だって、命あるものはみんな、その炎をいつか消すでしょう? だったら消えるまでに、好き勝手やったほうが、幸せだと思うんですよ。いや、あたしはね、仕事柄、人様の死ってやつをたくさん見てきたものですから。死んでから、後悔されてる方も多くてねぇ。それを見ると不憫で仕方ないんですよ。だから、そんな思いを少しでも減らしたいっていう……これもやっぱり、自己都合なのでございます。
その点あなたは幸運ですよ。ほぅら、体も乾いてきたでしょう? 火があって良かったですねぇ。他の方がここに来られるときは、大体火が消えちまったあとなんですが、この火はまだ、当分消えないですよ。だから安心して、もう少しばかり火にあたっていってください。そうしてすっかり乾いたら、気をつけてお帰りくださいね。皆さん、心配されてますから。大丈夫、帰りは舟でお送りしますよ。