ガラスの靴の持ち主

登場人物

  • 俺(男):王城に勤める警備隊長。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約9分30秒(2809文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

「階段」というテーマで書いた作品です。タイトルですでに察していただけると思いますが「シンデレラ」をオマージュしたシナリオとなっています。私は昔から不思議だったんですよ。シンデレラが王城にガラスの靴を残して消えるというストーリーが。より正確に言えば、その靴を手がかりにして本人を探すという点が疑問でした。だって脱げてるんだもん。走って脱げるならサイズあってないんじゃない? と思っていました。あと、同じサイズの女性なんていっぱいいるのでは? とも。そんな疑問から生まれたシナリオです。まあハイヒールを履いたことないので、案外すぐ脱げるものなのかもしれないですけどね。

本文

 その日、城内はざわめき立った。

 いわく、この国の第一王子が運命の相手を見つけたらしい。

 出会いの場は、昨晩開かれた舞踏会。ひときわ目を引く女を王子が見つけ、ダンスを申し込んだそうだ。女は、あまりダンスに慣れていない様子だったが、それすらも王子には初々しく映ったらしく、すっかり惚れ込んだとのことだった。

 だが、問題があった。女の名前が分からないのだ。女は、王子が名を聞く前に去ってしまったらしい。

 ただちに女の捜索が始まった。幸運だったのは、翌日ということもあり、舞踏会に出席した貴族の多くが未だ王都に留まっていたことだ。おかげで、出席簿に基づき全ての子女を王城に集めることができた。漏れなく全員・・・・・・だ。すぐに女の正体が判明するだろう、と誰もが思った。

 だが、結果として城に勤める家臣たちは、別の意味でざわめき立つことになる。

 目的の女が見つからなかったからだ。

 すぐさま、当日の警備にあたった警備隊長が呼びつけられた。招待客の中に該当者がいないということは、すなわち、招待を受けていない第三者が舞踏会に紛れ込んだということだからだ。

 王を始め、王族・貴族が集まる舞踏会に不審者の侵入を許したとなれば、それは重大な過失である。その責任者たる警備隊長は、最悪首が飛ぶことも覚悟しなければならなかった。冷や汗をかきながら御前ごぜんに出向いた警備隊長は、しかし、幸運にもその命を永らえさせることとなる。

 ――まあ、その警備隊長というのが、何を隠そうこの俺なのだがな。

 俺は、処罰を保留する代わりにとある命令を下された。その命令というのは、未だ見つけられていない女の捜索だ。捜索範囲はこの国全体。部下たちも動員して良いとのことだが、それにしたって正直広すぎである。

 加えて、手がかりはたった一つしかなかった。身元不明の女が残していったという靴だ。それも奇妙なことに、ガラス製の靴である。いわく、女は零時の鐘が鳴り始めたと同時に、王子の腕を振り切って走り去ってしまったそうで、そのときに残されたのがこの靴だった。階段のなかばに、転がるようにして落ちていたらしいので、急ぐ余り脱げてしまったのだろうと推測される。

 王子は、丁重に扱うようにと言付けし、俺にこの靴を預けた。靴にぴったり合う足を持った女を探せ、ということらしいが、捜索に出た俺は、その命令を秘密裏に無視するつもりでいる。

 なぜって? 脱げている時点でサイズが合っていないことは明白だからだ。そして、この靴より小さい足を持った女など、国中を探せばいくらでもいる。ゆえに、靴のサイズなどなんの手がかりにもならなかった。己の首がかかっている以上、そんな手に頼るわけにはいかない。

 代わりに俺が足を向けたのは、王都一の腕を持ったガラス工房である。俺は勝利を確信していた。

 ……どうしてだ!

 勝利予告からわずか半刻後、俺はそう叫びたいのを必死に抑えていた。

 結論から言えば、俺のアテは完全に外れてしまった。

 俺は、この靴に隠された手がかりは、その希少性だと考えていた。こんな珍妙な靴が、二つも三つも存在するわけがない。だからこそ、制作者が誰かを辿れば、すぐに女の正体が分かるはず。そう考えて、王都一と名高いガラス工房へとやってきたのだが、ガラスの靴を一目見た親方は、こんなものを作ったことはない、と即座に答えた。また、注文を受けたという話も聞いたことがないという。

 さらに不思議だったのは、この靴のつくりである。親方によれば、靴の形にガラスを加工しようとすると、どうしても継ぎ目がどこかにできるらしい。例えば、靴の底面と、ヒール部分の接着面がそうだ。だが、この靴にはそれがなく、全てがひとつなぎのまま、見事に靴の形を成しているとのことだった。

 こんなことは、この工房の技術を持ってしても実現できない、と彼は首を捻っていた。

 ……要するに、手がかりゼロどころか、謎が深まったわけである。

 役に立てず申し訳ない、と頭を下げる親方に礼を言って、俺は工房をあとにした。完全に手がかりがなくなり、呆然とする。

 女を見つけることができなければ、俺の頭は胴体とおさらばしなければならない。頭を抱えていると、帯同していた副隊長が俺に耳打ちをしてきた。

 俺の顔は、希望を取りもどした。

 ひと月後。王子は大々的に婚約を発表した。

 それだけでも城下は沸き立ったが、相手が平民の出だと分かると、さらなる熱狂の渦に包まれた。特に熱くなっていたのは、市井しせいの女たちである。

 彼女たちにとって、貴族に見初められるというのはこの上ない幸福だった。それが、ただの貴族ではなく一国の王子ともなればなおさらだ。女たちは、降って湧いたロマンスに興奮し、いつかは自分もと夢を見た。

 一方で、色恋沙汰よりも謎に興味を引かれたのは男たちだ。お祭りムードとなった城下の酒場に昼間から集まり、舞踏会の謎について語り合った。彼女はどうやって城に紛れ込んだのか、ガラスの靴はどこから調達したのか、などなど、一連の謎について各々が勝手な推測を並べ立て、それを肴に酒を飲んだ。

 そんな語り草の中に「警備隊長はどうやって女を見つけ出したのか」というものがあった。

 これは特に、俺の隊ではない兵士たちが話題の種にしていた。同じ兵士として、今回下された命令の難しさが理解できるだけに、気になるのだろう。中には、直接質問してくる者もあった。

 そんなときには、俺は相手に一杯奢らせ、こう真相を明かしている。

 ――副隊長の発案なんだが、仕組みはさほど難しくない。

 王子から、捜索にかかる費用に糸目はつけないと言われていたから、金にものを言わせて、城下の目についた女たちにこっそりこう言ったのさ。

 「自分より美しいと思う女をできるだけ見つけてこい」と。

 そして女たちには、見つけた女が本当に美しかった場合、その人数分だけ金を払うと約束した。ただし、早い者勝ちだ。紹介済みの女は記録しているから、重複すれば金は払わない。だからなるべく早く連れてこい、と依頼した。俺がやったのはそれだけだよ。

 あとは分かるだろう? 先着順と言われた女たちは、なるべく多くの報酬を得るため、我先にと動いてくれた。おかげで、ものすごい速さで国中から美しい女の報告があがってきたよ。それも、ちょっと美しいくらいの女じゃない。「女が『自分より美しい』と認めるほどの女」だ。そこまでいけば、話はもっと簡単だった。その美しい女たちに同じ依頼をして、何度か繰り返せばいい。行き着く先には、この国で最も美しい女がいるってわけだ。

 ……それがガラスの靴の女とは限らないじゃないかって?

 そんなのは大した問題じゃない。何しろ今回、女を探せと命じているのは、「美しい」という理由だけで一目惚れした王子様だ。例え目的の女でなくとも、それ以上に美しい女が「自分こそがそうだ」と名乗り出さえすれば、事実はそうだったことになるってもんさ。

 お前も男なら、気持ちは分かるだろ?