登場人物
- 教師(男):27歳。高校教師
- 田中マナ(女):17歳。高校二年生
- 警備員(男):47歳
- モブ教師(不問):兼ね役可。高校教師
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約9分30秒(2851文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
<SE>パソコンのキーボードを叩く音
モブ教師:サエキ先生、お疲れ様です
教師:ああ、お疲れ様です
モブ教師:今日も残業ですか? あまり無理をなされない方が……
教師:はは。大丈夫ですよ。若くて丈夫なのだけが取り柄ですから
モブ教師:そうですか… 。では、私は帰りますので、最後、戸締りをお願いしますね
<SE>扉がガラガラ閉まる音
教師:はぁ… 。もうこんな時間か。まだ終わってないけど、もう帰っちまうかなぁ。俺がどんだけ頑張ったって、どうせあいつらは…、ガッコーのベンキョーなんて、大人になったら忘れちまうんだもんな
<SE>パソコンを閉じる音
教師:帰ろ帰ろ
マナ:先生!
教師:うわあああ! びっくり したあああ!
マナ:先生!
教師:お前はどっから出てきたんだよ!
マナ:先生! 私の話を聞いてください!
教師:それはこっちのセリフだけどね!
マナ:先生! わ、私は、せ、先生のこと…
教師:はい
マナ:せ、せ、せ、先生のことが…
教師:はい
マナ:私は先生のことが好きです!
教師:わかった! じゃ、気をつけて帰れよ!
マナ:ひどーいー。一生懸命告白したのに…
教師:そりゃなぁ、お前。七回も告白されたらこうなるぞ
マナ:七回じゃないです! 八回です!
教師:わかったわかった。さっさと帰れ
マナ:告白の返事を聞くまでは帰れません!
教師:お前な、教師と生徒が付き合えるわけないだろが。俺を無職にする気か
マナ:先生! 愛は職業よりもお金よりも優先すべきだと思います!
教師:お前に愛などない
マナ:ひいいいい。ひどすぎるぅぅぅ
教師:もちろん、生徒としては大事だが、個人的感情はないということだ。わかったらお前はさっさと帰れ
マナ:さっきから、お前、お前って、ひどいです。名前で呼んでください
教師:田中マナ、帰れ
マナ:フルネームで呼ばないでください。あの、その、… 下の名前で… 呼んでほしいです
教師;田中、帰れ
マナ:うわあああん。なんで私をいじめるんですかあああ
教師:いじめてなどいない。俺はお前が心配なだけだ。お前は根性はあるが、努力の方向がエキセントリックだからな。貴重な青春を教師の待ち伏せに使うな。帰って宿題して寝ろ
マナ:目的を果たすまでは帰れません
教師:え、まだ何かあるのか
マナ:当たり前です。今日は何の日か、わかりますよね?
教師:今日は…… 何の日だっけか
マナ:あれれー? 今日はバレンタインですよ? 先生、もしかして、一個もチョコもらってないから気づかなかったんですかー? しょうがないなぁ! 私が…
教師:あ、そうだった。なんかロッカーにいっぱい入ってたわ
マナ:きいいいい! 何ですか! その大量のチョコは!
教師:そっか。今日はバレ ンタインだったんだな。どうりで
マナ:もういいです! 帰ります! さよなら!
教師:ちょっと待て
マナ:何ですか! お望み通り帰るところなんですけど!
教師:チョコ、持ってきてくれたんだろ。くれよ
マナ:え… 。なんで私からのチョコなんか
教師:お前が俺のために作ってきてくれたんだろ? なら、くれよ。お前の気持ちは無駄にしたくない
マナ:なんで、そんなこと言うの… 。(小声で)ずるいよ
教師:え、なに?
<SE>扉がガラガラ開く音
警備員:やあ、どうも! 今日も遅くまでお疲れ様です!
教師:警備員さん、お疲れ様です
警備員:あれ? 生徒さん、まだ残ってるの? もう何時だと思ってんの? だめだよぅ。…… あ! もしかして、先生と!? いやぁー、ワタシ、邪魔しちゃいましたかねー?
教師:ははは。生徒から進路相談を受けてましてね。夢中になって、つい時間を忘れてしまいました。生徒は僕が送りますから、ご心配なく
警備員:そんなこと言ってぇ、本当は生徒さんとイイ関係なんじゃないですかぁ? いやぁ、うらやましい ! 誰にも言いませんから、ワタシも混ぜてもらえませんかぁ? うひひひひ
教師:冗談はこのくらいにしましょう。さ、僕は 生徒を送っていきますので
警備員:ねえ、お嬢ちゃん。大人の男に興味ない? いくらかお小遣いあげ… <カットイン>
教師:いい加減にしてください! 生徒の前でする話ではないでしょう! これ以上続けるようだと、 学校運営に報告させてもらいますよ!
警備員:な、何だよ。冗談だよ、冗談。だ、大体、 運営に報告されたら困るのはアンタの方だろが、エロ教師が! 教頭に言い付けてやるからな!
<SE>扉がガラガラ閉まる音
教師:… ごめんな、嫌な思いさせちゃったな。もっと早く止めればよか… <カットイン>
マナ:(泣く)うわぁぁぁ
教師:お、おい。大丈夫か。怖かったよな。よし よし
マナ:ああああ。あああああ。ひっ。ひっ
教師:よしよし。…もう大丈夫だからな
マナ:ち。ひっ。ひっ。ちがい、ます。違います。わ、わたし、先生に迷惑かけちゃったから
教師:なんだ、そんなことか
マナ:そんなことって… 。先生、クビになっちゃう
教師:こんなことじゃ、クビにならんよ。… まぁ、仮にクビになったって、大したことないさ。他に転職すればいいだけだ。それより、お前を守ることの方がずっと大事だよ
マナ:… ねぇ、先生。覚えてる? 私さ、2年生になったばっかりの時に、初めてパーマかけたんだよね。そしたらさ、失敗しちゃって。もう、信じらんないくらい、クリンクリンになっちゃってさ。 学校行ったら、皆にすごい笑われちゃってさ。 ちょっと悲しかったけど、しょうがないから、私も、平気なフリして、皆と一緒に笑ってたの。そしたらさ、先生がすごい顔して教室に入ってきて、皆に『笑うな!』って、怒り出して… 。『田中がどんな髪型しようが田中の自由だ! 変な髪型だろうが笑うな』って。ふふふふ。バカ過ぎない? 変な髪型って言っちゃってんじゃん
教師:いや、それは… 。ごめん
マナ:皆、笑ってたのにさ、先生のせいでシラケちゃって。ふふ。私、その後、一人で泣いちゃっ た。私が皆に笑われて悲しかったの、先生だけが分かってくれて。助けてくれて。私、それが嬉しくて。…… だからね、先生
<SE>ほっぺにキス
マナ:(耳元で言う感じ)大好きだよ
教師:お、おい
マナ:じゃあねー。先生。まったあっしたー
<SE>扉がガラガラ閉まる音
教師:… おいおい、マジ でエロ教師になっちまうぞ俺。教頭に言い訳できねぇじゃん。… あいつ、 あの事覚えてたんだな
<SE>とくん、とくん(心臓の音)
教師:もういいおっさんだぞ? 俺! ときめい てんじゃねーよ。… あー、もう! いっそクビにしてくん ねーかなー