人類冬眠計画

登場人物

  • 博士(男):78歳
  • 助手(男):27歳
  • 記者(不問):25歳

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約6分0秒(1804文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文


SE <カメラのフラッシュ>

記者「人類冬眠計画の第一陣施術がついに明日まで 迫っておりますが、率直なお気持ちをお聞かせくだ さい」

博士「私は、これまで人類冬眠計画の主導者として地球クリーンシステムの開発および人工冬眠装置の開 発に取り組みました。地球環境は悪化の一途を辿っ ており、本計画抜きでは人類の未来はあり得ません。強い責任を感じながら計画を進めておりまし た。… 今でもそうです」

記者「改めて、人類冬眠計画の概要説明をお願いします」

博士「人類冬眠計画とは、極度に悪化した地球環境をクリーンシステムにより清浄化するとともに、清浄化が完了するまでの数百年の期間、人類全てを人工冬眠装置で保存する計画です」

記者「なるほど、よくわ かりました。明日には第一陣 冬眠が施術されますが、その中に計画に関わった人 物や政府官僚が含まれていない事について非難が集中しています。この事についてはどう思われますか」

博士「… 少々誤解があるようですね。不測の事態に備 えて有識者や為政者が残るのは当然でしょう。もち ろん、事故やヒューマン エラーが起こらないよう、 システムには万全を期しておりますが、人命に関わる事ですから、念には念を、というわけです」

記者「… 質問を続けます。クリーンシステムのテスト 運転で発生した事故について…<フェードアウト >」

SE <カメラのフラッシュ>

SE <足音>

助手「お疲れ様です」

博士「おお、木内くん。待っていてくれ たのか。 明日は忙しくな るぞ。今日はもう休みたまえ」

助手「あの、… お聞きしたことがありまして」

博士「… 何かね?」

助手「昨日、不安で眠れなくて、夜通し、人工冬眠装 置の動作チェックをしていたんです。そうしたら、 動作異常を起こす機体が見つかりました」

博士「… ほう。それはよく 見つけてくれ たね。よくよくメンテナンスするように指示しておこう」

助手「それが動作異常を起こした機体のナンバーが全て偶数だったんです」

博士「… それは、珍しい 偶然だね」

助手「偶数のナンバーの機体全てが動作異常を起こしました。全体の半分の機体が、ですよ?」

博士「… それは、偶然だね」

助手「ふざけないでください! これが偶然なはずないでしょう! このままだと人類の半分が人工冬眠に失敗する! 死んでしまいます! これは事故じゃない! 明らかな殺人だ!」

博士「…はっはっは… 君は勘が鋭いのか鈍いのか… 。 いいかね。それは偶然だ。そして機体のエラーなど 君は見つけなかった。… いいかね?」

助手「いいわけないでしょう! あなたは人の命をなんだと 思ってるん… 」

SE <銃声>

博士「一足先にお別れだな。お疲れ様。地獄でまた会おう」

SE <人が倒れる音>

博士「若いな。若すぎる。何も知らないままいかせて やりたかったが… 。こうなっては仕方がない」

SE <電話の発信音>

博士「私だ。裏に死体がある。早急に始末してくれ。 計画に支障はない」

SE <電話を切る音>

博士「誰が好き好んでこんなことをやると思う。仕方がないんだよ。クリーンシステムは完璧じゃない。地球環境が良くなる可能性なんてほとんどないんだ。それに、未来の人類に残せる食糧もインフラも限りがある。他に方法がないんだよ」

SE <紙をめくる音>

博士「木内くんはリストを見たんだろうか。彼には奇数ナンバーの機体を当てがっていたのに。一つ空席ができてしまった」

SE <猫の鳴き声>

博士「野良猫か… 。まだ生存している個体がいたとはな。逞しいものだな。… そうかそうか。君を木内くんの機体に乗せるのも手かもしれないな。君にはその権利がある」

SE <猫の鳴き声>

博士「もっとも、過酷な環境下で生き残るか、未来に 希望をもったまま安らかに眠り続けるか。どちらが幸福か、私にはわからんがね」

SE <猫の鳴き声>

博士「そうかそうか。撫でて欲しいのか。よしよ し。… すまないね。いつまでもこうしていたいが、 私は君と同じところへはいけないんだ」