登場人物
- イリヤ(男):17歳
- ジュード(男):34歳
- マーシア(女):27歳
- アナウンサー(不問):不問
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約22分0秒(6618文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
アナウンサー(テレビ音声):…このように述べています。これに対してアメリクス軍はテロには一切の交渉をしない姿勢をとっており、こう着状態が続いている状態です。現場では、引き続き中継を続けます
ジュード:なあ、どっちがいい?
イリヤ:うん
ジュード:一つは定番のオイルサーディン、そんでもうひとつは… 、なんと、 ニッポンのコーベビーフだ!
イリヤ:うん
ジュード:驚いたか! さっきアメリクス軍の倉庫からかっぱらってきたんだ! こいつをパンで挟んで食ったらぶっ飛ぶぜ! な、お前、確か、DNA のベースはニッポン人だったな? 良かったな〜。故郷の味だぜ?
イリヤ:うん
ジュード:… なあ、イリヤ。そんなに、あの女のことが気になるか?
イリヤ:ああ、そうだよ。気になって仕方がない。でも、いいんだ。もう終わったことなんだ
アナウンサー(テレビ音声):… あ! 反抗勢力の陣地から誰か歩いてきました! … 女性のようですね。武器は持っておらず、無防備です! 両手を挙げています。降伏しにきたのでしょうか? あ! アメリク ス軍が発砲しました!
<SE>ガシャン(陶器の割れる音)
ジュード:イリヤく〜ん。めっちゃキレてんじゃん。手に力入りすぎ。そのカップ高いやつだよ〜?
イリヤ:え!? こ、これもアメリクスから盗んだやつじゃないの?
ジュード:それはそうだけどさ〜あ?
アナウンサー(テレビ音声):… どうやら弾は外れたようですね。おそらく威嚇のためだったと思われます。反抗勢力から反撃はありません。女性は両手を挙げて立ったまま動きません
イリヤ:ふぅ〜う
ジュード:あからさまにホッとしてるようだけどね、イリヤくん。ダメだよ。ほんと。彼女を助けに行ったりしたら
イリヤ:わかってる。さっきも言ったでしょう。彼女への個人的感情は置いておくとして、今や反抗勢力のリーダーとなった彼女と僕が接触するのは明らかに問題がある
ジュード:そうそう。わかってるならいいんだよ。お前とあの女が一緒になってみろ! 極悪テロリストと世界最強の生物兵器! くぅ〜! 悪魔みたいな組み合わせだぜ!
イリヤ:ジュード。彼女はテロリストじゃない。取り消してくれ
ジュード:わかってるよ。取り消す取り消す。俺は客観的な視点からモノを言ってるのさ。メディアはあの女が暗殺と裏金でのし上がったって報道してるんだからな。…くふふふ。ただの田舎娘がそんなもんでのし上がれるほど世の中簡単じゃないと思うがね。世の中、バカばっかりさ。その点、俺は、あの女の事はよく知ってるさ。はっきり言って、イリヤ、お前よりずっと知ってる。俺はあの女を悪く思っちゃあいない。ほんと だぜ? 尊敬してると言ってもいい。 ただし、イリヤ、お前を唆(そそのか)したことを除いてな
イリヤ:僕は、別に
ジュード:いいや、お前は確実にあの女の影響を受けてる。いいか、お前みたいな脳筋が、世界平和だの、平等主義だの、ほざいてるのは構わん。なんの影響力もないからな。小鳥の囀りと変わらん
イリヤ:ひどいよ
ジュード:でも、あの女は違う。ガキみたいな理想主義の下地には、強力な政治思想と綿密な計画が隠れている。政府にとって危険人物ってわけだな
イリヤ:彼女は政府と争う気はないよ
ジュード:どうだか。それに、あの女はアジテーターとしての能力も一流だ。民衆の士気を上げ、魅了し、コントロールする。人間を支配するカリスマは尋常じゃない。かつてのキリストやシャカも真っ青って感じだな。教祖様にでも転職すりゃいいのにな
イリヤ:ジュードは彼女を誤解してるよ
ジュード:こっちのセリフだぜ。イリヤ。 俺には、お前があの女のケツを追っかけ回してるバカ共の一人にしか見えん。… まあ、ともかく、お前はあの女との縁を切ったわけだから、お前にもなけなしの知性ってもんがあったわけだがね
イリヤ:嬉しくないね
ジュード:そういうなよ。これでも褒めてんだぜ? これで世界滅亡のシナリオからは免れたわけだ
イリヤ:ジュード、僕は何度でも言うけど …
ジュード:わーかってるって! あの女に悪気はないって言いたいんだろ? そんなことは問題じゃないんだよ。あの女は貧しい人を助けたいー、だとか、平等な世界をー、だとか、ほざいてるが、やってる事は世界征服みたいなもんだ。政府が黙ってるわけないだろ。こうなるのは自業自得だ
イリヤ:でも、でもさ、ジュード。… その、 どうだろう? 僕が彼女が暴走しないようにサポートできたら…
ジュード:… イリヤ、お前、そんなこと考えてたのか。気持ちはわからんでもないが、無理だぜ、それは。お前に彼女がサポートできるかどうかは問題じゃない。お前と彼女の組合わせが危険すぎる。政府が黙認するわけがない。軍事攻撃の的になっておしまいだ
イリヤ:でも! …いや、…言う通りだと思う…
ジュード:そうだ。お前の存在が彼女にとどめを刺すことになるだろう。俺にとっちゃあの女はどうでもいいが、お前が巻き込まれるのは我慢ならん
イリヤ:ジュード…
アナウンサー(テレビ音声):依然、女性は両手を挙げて立ったまま動きはないようで…ああ! 女性が両手を下ろしました。そし て、上着を脱ぎます。あ、あれはなんでしょうか。小さな、ボール? のようなものを首から下げています…
ジュード:マジかよ! あのクソ女! 反陽子爆弾じゃねえか! ハハハ ! イカれてやがる!
イリヤ:反陽子… ?
ジュード:アメリクス軍が保持してるイカれた新型兵器だ! ハハハ! あいつ、アメリクスから盗んだ な? だからアメリクスがあんなに慎重になってんだ
アナウンサー(テレビ音声):えー、専門家によると、あれは小型の爆弾のようですね。えー、しかし、あの小さなサイズではアメリクスにほとんど影響はないようです。皆様、ご安心ください
ジュード:バカが。あんなもんが起爆したら地球が半分吹っ飛ぶぞ
イリヤ:マーシア。なんでこんなことを…
ジュード:あのイカれ女の考えなんぞわかるもんかよ
アナウンサー(テレビ音声):なにやら、女性が喋っているようです。… えー、声が小さすぎて全く聞き取れないですね。カメラで口元をズームしてみましょう。… えー、《い、ぬ、た、す》、え、もうちょっとズームして、《い、ぬ、た、す、け、て》、えー、犬助けて?、《犬助けて》だそうです。これはなんでしょうか? 動物愛護のスローガンでしょうか
ジュード:さすがの俺もこれは意味不明だな。まあ、どうでもいいか。メシにしようぜ!
イリヤ:… そうだ、思い出した
ジュード:どうした? 言っておくがコーベビーフは俺のだからな
イリヤ:彼女と初めて会ったとき、言われたんだ。僕のこと、犬みたいな目をしてるって。スーパーの前で、ガードレールに繋がれた犬を指さしてさ。… ふふ、ふふふ、はっはっはっは!
ジュード:おい、怖えぇよ。どうしたんだよ
イリヤ:彼女が僕に助けを求めてる。僕は行くよ
ジュード:おっまえ…… 。今までのやりとりなんだったんだよ! 絶対ダメだ! 行ったら死ぬぞ!
イリヤ:やってみなきゃわからないさ。もし、 死ぬ可能性が高いとしても、それは、また別の話だよ
ジュード:死ぬ覚悟があるってか? 馬鹿野郎が。だがな、もし、お前が死ななくても、あの女の周りの人間は間違いなく死ぬ。それもわかって言ってんのか?
イリヤ:全部救ってみせるさ。無責任だけども、やれそうな気がするんだ。僕は自分にセーブをかけたくな い
ジュード:… 自分で何言ってるかわかってんだな?
イリヤ:ああ、何を犠牲にしても彼女を助ける
ジュード:そうか。… じゃあ、俺を殺してから行け
イリヤ:ジュード… ?
ジュード:言ったろ? お前とあのクソ女の組み合わせは最悪だって。あれは俺の考えでもある。力づくでも止めてやるぜ
イリヤ:そうか
ジュード:おう。かかってこいよ
イリヤ:じゃあ、やめる
ジュード:さあ、こい ! … え? 何?
イリヤ:ジュードと闘うのは嫌だよ。それなら、僕は行かない
ジュード:ええ…? おい、イリヤ、俺はお前がわからんぜ。絶対、闘う流れだったろうよ。それか、せめて、俺を説得しようとしろよ
イリヤ:なんで? ジュードの望み通りになったんだから、文句ないでしょ?
ジュード:そうなんだけどさー。やべ、俺、なんか一 人で盛り上がって恥ずいんだけど
イリヤ:マーシアは大事だ。ものすごく。でも、俺にはジュードも大事なんだよ
ジュード:イリヤ… 。お前…
イリヤ:さあ、ゴハンにしよう。言うこと聞いてあげたんだから、コーベビーフは僕のものだね
ジュード:… いいや、コーベビーフは俺のだ
イリヤ:ははっ ! ジュードは食いしん坊だな
ジュード:そうじゃねえ。イリヤ、お前、行ってこい。あの史上最高にクソなイカれ女を助けに行け
イリヤ:… いいの?
ジュード:お前はわかってないかもしれんが、…本当はこんなことは言いたくないんだが、マーシアはお前に必要だよ。絶対にな。アメリクスから彼女を奪い取れ
イリヤ:ジュード、君、そんなにコーベビーフが好きだったのか
ジュード:ちげぇよ! ばか! 空気読めよ!
イリヤ:はは! 冗談だよ。君と長く過ごす間に、君のジョーク癖がうつっちゃったみたいだ
ジュード:そうかい。ま、お前はもう戻ってこないから教えといてやるが、コーベビーフはまだ3缶ある
イリヤ:気づいてたさ。君がコーベビーフが美味いって言い出した時からね。もう1 缶は食べたんだろ? パンに挟んで
ジュード:はっはっは! なんだ。気づいてたのか… 。お前がいなくなったら、コーベビーフは全部、俺のものってわけだな
イリヤ:太っても知らないよ。ジュードはもうおじさんなんだから
ジュード:… お前も随分人間らしくなったちまってよぉ。…それなら、大丈夫。もしもマーシアにフラレても立ち直れるさ
イリヤ:ええ!? 俺、フラれる可能性あるのか。しまった。それは考えてなかった
ジュード:驕れるものは久しからず、だな
イリヤ:おご、おごれ?
ジュード:油断すんなって意味だよ。モテモテな上に世界で二番目に強い俺が言うんだから、謙虚なアドバイスだろ?
イリヤ:はいはい、精々がんばるよ。モテモテではないけど、僕は世界で一番強いからね
<SE>カチャカチャ、カチャカチャ(戦闘スーツを装着する音)
イリヤ:じゃ、行ってくるよ
ジュード:おう、行ってこい ! 帰って来んなよ!
<SE>ブオオオオオオ(ジェット音)
アナウンサー(テレビ音声):現場では依然、膠着状態が続いております。女性は目を瞑って立ったまま、何もする気配がありません。いつまでこの状態が続くのでしょうか。… あ、何か音が聞こえますね。戦闘機が近づいてくるようです。反抗勢力からの攻撃でしょうか。あれは、人?、…人ですね。おおっと! あれはー! イリヤ・ブリオン! ヒーローのイリヤ・ ブリオンが現れました! 動きを見せないアメリクス軍に代わって、イリヤ・ブリオンが反抗勢力を鎮圧しにやってきました! … ん? どうした? イリヤが女性の前に立ちました。おかしいですね。 これではまるで女性を守っているように見えます。…おおっと、アメリクス軍が急に集中砲火! 急です! 急に総攻撃を仕掛けていきます! なぜだ! どうした! … さあ、あたりが土埃で何も見えません。イリヤと女性は木っ端微塵となってしまいました。このままアメリクスは侵攻していくのか。… 土埃が晴れてきました。無惨なイリヤの姿がそこに… 。おおっと! イリヤ! 無傷! 無傷です! 何事もなかったようにそこに立っています。何やら 女性と雑談しています。アメリクス軍、これには困惑の色を隠せません。イリヤ、女性に手を差し出します。…… おおっと、イリヤ、手を振り払われたー ! まるで女性に告白をした後にフラれたように見えます! まあ! この戦場で実際にはそんなことはないでしょうが! あ、イリヤ! 腰から崩れ落ちました! さっきの集中砲火が今頃効いてき たのでしょうか? 何やら女性がイリヤに話しかけています! イリヤ! 笑顔! イリヤが笑顔を見せました! 満面の笑みです! 何を言われたのでしょうか。気になります! おおっと! アメリクス軍、またも集中砲火。先ほどと同じ攻撃です! 変わり映えしません! さて、土埃が晴れるまでしばしお待ちください。… さあ、土埃が晴れてきましたが、おお! 土埃が晴れたその先には誰もいません。どこに消え た!? イリヤ・ブリオン! あ、ああ! 上だ! 上にジャンプしていました。そして、アメリクス軍に向かって、攻撃の姿勢を見せています。さあ、何をするのか。レーザーか、火炎放射か、はたまた超音波攻撃か。おーーーっと! 普通のパンチだ! 届くのか!? ちょっと距離が遠くないか!? これでは効果はないでしょう! … ん? おお、あ、ああ、 アメ リクス軍、まとめて吹き飛びました! わ、ワンパンです! アメリクス軍、ワンパンでやられました! 壊滅状態です! これはどうしたことでしょう! 一体、世界はどうなってしまうんだー! あ、イリヤ何やらウロウロしています。アメリクス軍の残骸から戦闘機を掘り出しました。それに女性を乗せてー?、イリヤも乗り込みます! あ! こちらに手を振っています! まるで新婚ほやほやのカップルのような微笑ましさです! これから旅行にでもいきそうな感じがしますが、どうなんでしょう! ジェットを噴射して…離陸…離陸したぁー! 飛行機雲をひきながら、戦闘機が空で弧を描いています! おおーっ と! これは! ハートだ! ハートマーク! イリヤ、飛行機雲でハートマークを描きました! 完全に浮かれています! さあ、飛行機が南の空へ消えていきました。アメリクス軍は全滅しましたし、もうカメラに映すものはありません。おっと、反抗勢力側から、男性が歩いてきました。どこかで見たような。ああ! ジュードです! ジュード・ブリオ ンが歩いてきました! 超能力を操る無敵のヒーロー! ジュード・ブリオンがやってきました! そう! アメリクスにはまだこの男が残っていました! 乱心したイリヤ・ブリオンを止めるために、ジュード・ブリオンが来てくれました。おっと、何やら手招きしています。ジュードから視聴者の皆さまに何かメッセージがあるようです。さあ、イリヤ討伐に向けてどのようなメッセージがあるのでしょうか? ん? 《悪いな》? どう言うことでしょ…。あれ? 何だっけ? ああ、どこだ? ここどこ? お腹すいたな。帰らないと。バス停はどこだ?