登場人物
- 幽霊(女):25歳
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約4分00秒(1279文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
わたしは、あなたの帰りを待っている。
だって、わたしにはあなたしかいないんだもの
掃除も洗濯も、靴磨きもできないし、
夕食の用意も、なにもできない
わたしは、お腹を空かせたペットのように、ただあなたを待っているだけ。
そんなわたしに、あなたは呆れてしまうかな?
そんなこと、絶対にない。
あなたはいつだって優しく微笑んで、わたしに愛情をそそいでくれる。
だから、わたしはあなたを待っているのだし、
そうでなければ、
わたしはとっくに、この世からいなくなってるはずだよ。
役立たずだと思われても、無視されても、
わたしはあなたに頼ることしかできない。
とても、とても、儚くて、弱い存在。
社会的に、何の意味もない存在。
わたしの世界の中心には、あなたがいて、
あなた以外には、なんにもない。ただそれだけが、わたしの世界
<SE>開錠する音、玄関のドアが開かれる音
ああ、あなたが帰ってきた。おかえりなさい。
無口なあなたは何も言わず、
そっと、玄関から部屋へ入ってくる。
わたしは、いつものように、とびっきりの笑顔で迎える。
お風呂にする? それとも、ごはんにする?
まあ、どっちも用意はできてないんだけどね。
あなたはぜんぜん、わたしの声なんて聞いていなくて、
わたしの目の前を素通りして、リビングに向かう。
あなたは、微笑んだ顔のまま、いつものようにソファに腰かける。
あなたはいつでも微笑んでいるから、
わたしもつい、調子に乗ってしまう。
でもね、わたしもわかってるの。長い付き合いだからね。
あなたのその表情は、微笑んでいるわけじゃないんだよね。
もともと、口角のあがった顔なだけ。
あなたにとって、それが自然な表情なのよね。
あなたとこうやっておしゃべりできて、わたしはとっても幸せ。
でも、この幸せは、
何の不足もない、カンペキな幸せ、ってわけじゃないの。
だって、わたしはあなたに触れることができないんだもの。
あなたのその柔らかそうな髪の毛に触れたり、
その大きな背中に身をまかせてみたいんだけど、
そういうわけにはいかないの。
わたしの体はとっくの昔に焼かれて、灰になってしまったもの。
わたしね、あなたがちょっとだけ、恨めしくなるときがあるの。
だって、あなたはまだ生きているんだもの。わたしとちがって。
ねえ、わたしって、がまん強いほうだと思わない?
あなたがなんの返事もしてくれなくても構わない。
ただ、一緒にいるだけで幸せ。
だけど……だけどね……
あなたが、ほかの女と一緒にいるのだけは、どうしてもがまんできない。
ねえ、わかってくれるでしょ?
もし、今度あなたがそんなことをしたら、
わたし、
あなたを殺してしまうかもしれない
ねえ、知ってる?
わたしにとって、あなたを殺すことは、それほど難しいことじゃないの。
そうだ! なんでいままで気づかなかったのかな。
いっそのこと、あなたも死んでしまったほうが、
わたしたち幸せになれるんじゃないかな?
あなたもそう思うでしょ?
ねーえ!
ほんとは聞こえてるんでしょ?
ねえ!
ほら! こっちを向いて! わたしを見て!
わたしの声が聞こえてるはずだよ!
ほら! ほら! ほら!
ねえ、いい加減気づいたんじゃない?
あなたのことよ。