登場人物
- ナレーター:不問
- トナカイA:ベテランのトナカイ
- サンタ:不問
- トナカイB:若いトナカイ
- 少女(女):10歳くらいのイメージ
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約10分0秒(2950文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
ナレーター:真っ白な雪で覆われた土地に、ぽつん、と小さな家が建っています。小さなレンガ造りのその家は、近くで見るとかなり古いもののようで、 あちこちにヒビが入っているし、窓にはクモの巣がかかっています。こんなところに住んでいるのは、きっと変わりものなんでしょうね。さてさて、なんだか、家の中が騒がしい ようです。
<SE>チーン(電子レンジ)
トナカイA:おじさん、起きて! ブルーベリーパイが焼けたよ! もう起きないと、間に合わないよ!
サンタ:ん〜〜。トナカイよ。もうちょっと待ってくれんか。久々過ぎてフラフラするわ〜。
トナカイA:もう! 滅多にない活躍の機会なんですから、ビシッと決めてよ! サンタクロースがそんなことでいいの? ほら、トナカイの新入りもいるんだよ!?
サンタ:新入りぃ…? 滅多に活躍の機会がないんだろう? 新入りなんて入れてどうする?
トナカイA:それは仕方ないんだよ。僕一人でソリを引くのは難しいからね。せめてもう一匹はいてくれないと…
サンタ:そうか…。お互い歳を食ったもんだな。で、その新入りはどこだ?
トナカイA:あれ? さっきまでそこにいたんだけど…っておい! なんでそんなとこに隠れてんの!
トナカイB :ごめんなさい! あの有名なサンタクロースさんに会えるなんて…。緊張しちゃって…
サンタ:はっはっは! なんだ、そんなこと気にするもんじゃない。 ワシはただの老いぼれじいさ! この世界がこんなことになってしまってからは、もう魔法の力も弱い。
トナカイB:そんな! あなたのソリを引けるなんて、夢のようです!
サンタ: ふむ。悪い気はせんな…。では、準備に取り掛かるとしよう
トナカイA: あー…。実はねぇ、準備はもう出来てるんだよ
サンタ:んん ? やけに手際がいいじゃないか。 今までそんなことなかったろう。いつもギリギリでヒーヒー言いながら子供達のリストを作ったり、プレゼントをラッピングしてただろう
トナカイA:ははは…。いやぁ…。だってさ…。ねぇ?
トナカイB:そうですよね…
サンタ:なんだなんだ? ちょっと、子供達のリストを見せてくれ
<SE>紙をめくる音
サンタ:おいおい…。とうとうやっちまったなぁ、人間どもめ
トナカイA :僕もねぇ、詳しい ことはわからないんだけど、 どうやら、そういうことなんだ
サンタ:ふぅ…。おそらく、人類、最後の一人、か。仕方がないのかな。…コレが最後の仕事になるんだろうな
<SE>シャンシャン(鈴の音)
ナレーター:雪の夜。 空を駆ける魔法のそりには赤い服のサンタクロースが乗っています。 彼らの住む地方の大地は、雪に覆われていますが、 一度、雪原を抜けてし まえば、そこには、荒れ果てた土地があるばかりで、人里はおろか、一本の草木さえ、見当たりませんでした。
サンタ:想像はしてたが、実際に見るとひどいもんだな。ワシが眠っている間に何が起こったのか。まあ、大体、想像はつくがね
トナカイA:全く、人間ってのはどうしようもないね。まあ、僕らの存在も人間の想像力が生み出したものだから、 僕たちも似たようなもんなんだろうけど。はは
サンタ:しかし、腑に落ちないな
トナカイA:あ、やっぱり? そうだよねぇ?
トナカイB:え? 何が腑に落ちないんですか? 僕にも教えてくださいよぉ
トナカイA:それはだねぇ。僕たちの存在って、人間達の想像力っていうか信じる力みたいなものなんだ。だから、僕たちの存在を信じている誰かがいないと、僕たちは存在し得ないのさ。現に、僕たち、もう何千年も眠ったままだったじゃないか
トナカイB:なるほどぉ〜。っていうことは、まだ僕たちを信じてくれ てる人がいるってことですね?
サンタ:そういうことじゃな。 我々を待っている存在。それが、このリストの女の子なんじゃろ
トナカイB: へぇ〜 その女の子に会えるの、楽しみだな〜
サンタ:そうじゃなあ。ほっほっほ
<SE> シャンシャン(鈴の音)
<SE>シュイイイーン(空とぶソリが着陸)
サンタ:どうやら、ここじゃな。このシェルターの地下に、その子がいるはずじゃ
トナカイA:おじさん…
サンタ:お? どうしたトナカイ? なんかだんだん、透明になってきてないか?
トナカイA:そうなんだよ…どうやら、僕らはここでお別れみたいだね
トナカイB:うわ! 僕の体も透明になってきてます〜 ! え〜、女の子に会いたかったのに〜 !
サンタ:今までありがとうな、トナカイ。お前と働けて良かったよ。…君もだ。新入りくん。君とは今日、出会ったばかりなのに、 …残念だ
トナカイA:今までありがとね。ばいば〜い<リバーブ・フェードアウ ト>
トナカイB:さよなら〜<リバーブ・フェードアウ ト>
サンタ :さあ、ワシに残された時間も、もう少しだ。 最後の仕事といこうか
<SE> シェルターの中、足音
ナレーター:薄暗く、金属が錆びたような匂いのシェルターの中。その真ん中にある、大きな半円型の装置の上に、少女は横たわっていました。装置の脇には、懐かしい、サンタクロースの絵本が置かれています。
サンタ:君か、ワシらを起こしてくれたのは
少女:誰?
サンタ:ほっほっほ。誰って、そりゃあないじゃろう? 君がワシを呼んだんじゃないか
少女:もしかして、サンタクロース…?
サンタ:そうじゃよ
少女:嬉しい…! 本当にきてくれたのね。ずっと…来てくれ ないかと思ってた。 昔の、絵本で、あなたのお話を読んだの。 あなたは、いい子のところにしかこないんでしょ? 私、いい子じゃないから…
サンタ:そんなことないさ。現に、ワシがこうしてやってきたんだから間違いない。君はいい子だよ
少女:でも、私、お母さんと 約束したのに。ずっと、ずっと、生きていくって、おばあさんになるまで生きるって、約束したのに。もう、なんだか、だめみたいなの
サンタ:大丈夫さ、ワシがついてる。お母さんの顔を想像してごらん。 きっと、笑って許してくれるはずだよ。
少女:お母さん…。ほんとうね。お母さん、笑ってるわ
サンタ:うん。 …ああ、そうだ。君にプレゼントを渡さないとね。ちょっと待ってて…ほら、コレだよ。 ああ…もう眠ってし まったか。おやすみなさい
<BGM> オルゴール
ナレーター:だんだんと透明になっていく サンタクロース。その最後の瞬間、 サンタクロースの頭の中では、走馬灯が駆け巡りました。慣れ親しんだ小さな家。仕事仲間のトナカイ達。たくさんの子供たちの笑顔。そして、最後に浮かんだのは生命維持装置につながれた、痩せこけた、少女の寝顔…。その少女の顔は、こんな状況でも希望を失ってはいませんでした。それは、プレゼン トを夢見る子供の、いつも通りの笑顔です。白い霧となって消えていくサンタクロースの胸は、最後まで暖かいままでした。
さて、少女に贈ったプレゼントは、かわいい小さなオルゴール。 優しい音色に包まれた少女は、幸せな夢を見ていることでしょう。