金髪ギャルは強いのだ

登場人物

  • 娘(女):かすみ。高校生。唐突に金髪にしたくノ一。成績優秀。
  • 父(男):パパ上。天隠流てんいんりゅう忍術の二十二代目宗主。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約10分(3034文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

「てへぺろ」というテーマで書いた作品です。このテーマに決まったときはどうしようかと頭を悩ませましたが何とかなりました。
“父親をおちょくることで自覚なく甘えている”金髪ギャルと、”表面上は厳しくもなんだかんだ娘に甘い”パパ上とのやりとりを自由に楽しんでいただければと思います。コメディーベースですが、シリアス味もあるシナリオをお楽しみいただけたら嬉しいです。

本文

   SE:ドアを開ける

娘「ただいまー」

   SE:足音

娘「はーあ、今日も学校だるかったー」

父「かすみ

娘「うわッ! びっ……くりしたぁ。え、パパなんでいんの? 仕事は? 来週まで帰らないとか言ってなかったっけ」

父「パパはやめなさい。父上と呼ぶようにいつも言っているだろう」

娘「えぇ、いきなり説教? だる。じゃあパパ上」

父「パパ上もやめなさい。はあ……とにかくちょっとそこに座りなさい。話がある」

娘「あたしはないけど?」

父「霞」(静かな怒気を込めて)

娘「……あー分かったって。そんなに殺気出さなくてもいいじゃん。座れば良いんでしょ」

   SE:鞄を置く
   SE:座る

娘「で、なに?」

父「うむ……実はな、学校から連絡があった」

娘「学校から?」

父「ああ。私から言わずとも、心当たりがあるんじゃないか?」

娘「えー、なんだろ。あたしが可愛すぎて男子から苦情が来てるー、とか?」

父「霞、いい加減にしなさい。私は真面目な話をしているんだ」

娘「いや、わりとあたしも真面目だって。なにパパ上、あたしが可愛くないって言うの?」

父「そういうわけじゃない。もちろん霞は世界で二番目に可愛いとも」

娘「うわ出た、隙あらば惚気のろけるやつ。まさかこんなおこモード・・・・でも入れてくると思わなかったわ。やめてよね、真顔でママが世界で一番可愛いとか言うの」

父「事実なのだから仕方ないだろう」

娘「はいはい、事実事実。確かにママ、めちゃ若見えするもんね。たまにあたしの妹だと間違われるくらい。……あれ待って、そんなママと結婚したパパ上って、もしかしてロリコ――」

父「(内心焦りつつも押し殺しながら、やや食い気味に)お母さんの見た目が変わらないだけだ。私たちが知り合ったのは十四のときだが、その頃からすれば年相応だったとも。断じて私が幼女趣味だったわけではない」

娘「でも、今も十四歳の見た目したママを世界で一番可愛いと思ってるんでしょ? 怪しいと思うけどなー」

父「ふっ、霞も愛する人を見つければいずれ分かるとも。この気持ちがな」

娘「はいはい、じゃあ、おつかれさまでしたー」

父「待て」

   SE:シュッ(素早く移動)
   ◇父、素早く娘の背後に回り、羽交い締めにするようにして動きを固定。娘の首元に担当をあてる。

娘「(息を呑む)」

父「まだ話は終わっていない」

娘「……あ、あはは。パパ上、娘の首元に刃物を当てるのはさすがにやりすぎじゃないかな~、なんて。しかもそれ、ばっちり毒塗ってあるやつじゃん」

父「私もこんなことはしたくないが、こうでもしないと真面目に話を聞いてくれないようだからな」

娘「(額に汗を浮かべつつこわばった声で)ちぇ~、ママの話で煙に巻く作戦失敗かぁ。(観念したように)分かった、分かったよ父上。本当に降参します。許してください」

父「本当だな?」

娘「本当に本当です。……はあ、まだ父上には敵わないかあ。背後に回られたの、全然見えなかった。一応これでもあたし、学校の成績トップなんだけどなあ」

父「ああ、知っている。学校から来た電話の半分は、その話だったからな」

娘「え、そうなの?」

父「ああ。まあ、とりあえず一息つくか。楽にしなさい」

   SE:力をゆるめる(衣擦れの音)

娘「ふう……」

   SE:父、数歩歩く
   SE:座る

父「さて、仕切り直しだ。私が言いたいことは、もう分かるね?」

娘「はーい。この金髪、でしょ?」

父「そうだ。なぜしのびともあろうものが黒髪を染めた。我らは闇夜に潜む者。派手な髪色にして得などないことは分かりきっているだろう」

娘「んー、それでも染めたかったから?」

父「……もうふざけないのではなかったか?」

娘「ふざけてないって。染めた理由は、本当にそれだけ。そりゃ、自分が普通じゃない自覚はあるけど、あたしだって女子高生だし。おしゃれもしてみたいなあって。どうせ仕事のときは頭巾で髪なんか隠すんだし、支障はないと思ったの。別に学校の規則でも禁止されてなかったし」

父「それは、あえて明文化せずとも、この国の忍なら髪を染めるなんてことはしないからだ」

娘「うん、分かってる。分かってて、やったの。法の抜け道を突くってやつ。得意でしょ、あたしたちそういうの。ちょっと悲しいけどさ」

父「霞……」

娘「あ、いや、今さらくノ一として生きていくのが嫌なんて言わないよ? 普通に生きていこうとしたって、もうあたしの手も綺麗なわけじゃない。それに、技を磨くのは楽しいの。じゃないと成績トップになんてならないって。でも……でもさ。ちょっとくらい、普通の女の子らしいことをしたくなっちゃったんだよ。髪の毛くらい、いいかなって。……ごめん、父上」

父「……学校からの連絡は、来月の学生選抜任務に、学校代表として霞を選出したいという話だった。だが、突然霞が金髪にしてきたから先生も焦ったようでな。家庭で何かあったのか、模範にならないから戻すように言ってくれという話だったよ。正直、私は驚いた」

娘「まあ、父上が任務でいない間の期間限定のつもりだったしね。戻ってくる前には黒髪に戻しておくつもりだったのに、帰ってきたらいるんだからびっくりだよ」

父「可愛い娘がグレたのかと思ってな。飛んで帰ってきたんだ」

娘「あはは……もしかして、あたしのせいで任務失敗?」

父「いや、予定を全部すっ飛ばして力業ちからわざで潰してきた」

娘「あはは! そっか、さすが父上! すごいなあ、本当に規格外だ。さすが天隠流てんいんりゅう忍術の二十二代目宗主。令和最強の名は伊達じゃないね」

父「そもそも総数が少ない中での最強だ、大したことじゃない」

娘「えー、そう? そうかな?」

父「ああ。私程度、追い抜いてもらわなければ。霞、お前にはその才能がある」

娘「……ありがと、父上。あたし頑張るよ」

父「ああ」

娘「あ、そうだ。頑張るといえば、父上にいっこ報告があるんだ」

父「報告?」

娘「うん。えっとね……多分、そろそろだと思う」

父「そろそろ? 一体なにが……うっ! これは……!」

   SE:倒れる

娘「あ、良かった時間ぴったりだ。さすがあたし」

父「か、霞……私に薬を盛ったな……」

娘「てへぺろ☆」

父「遅効性の……痺れ薬か……かはッ!」

娘「そうでーす! 霞ちゃん特製の痺れ薬でーす! いやあ、さすが父上、普通は口も麻痺するからしゃべれないんだけどなあ。あらゆる毒物への耐性ってのは本当にすごいねぇ」

父「ふっ……薬の取り扱いは母譲りか……すでに私を……一部では超えていたのだな……」

娘「まあ、ママもママでスパルタだからね。いやあ、しかし金髪作戦、うまくいったなあ」

父「何……?」

娘「おしゃれしたかったっていうのも本当だけど、実はこの髪、役に立つところがあってね。細ぉく加工した金属の糸を紛れ込ませても、髪自体が明るい色だから目立たないんだぁ。だから、さっき組み付かれた隙に、薬を塗った先端をちょん、ってね。あたし自身は解毒薬飲んでるから間違って触れても効かないし、いやあ、大成功。ぶいっ!」

父「逃げようとしたのも……全て作戦の内か……」

娘「うん、どうせ逃げられないのも込みでね。大体、さすがのあたしだって、父上の気配に全く気付かないわけないじゃん。父上、気配消えすぎててあたしなんかには逆に分かっちゃうんだよ。ママも分かると思う。だから、本当に全部織り込み済み。帰ってきて最初にびっくりするところから、演技だよ、演技」

父「そうか……くっ……立派になったな……」

娘「じゃ、そういうわけだから。有用性も示せたことだし、金髪も許してね、パパ上☆」