登場人物
- 私(男性):植物と会話できる能力を持つ
- ネナシカズラ(男性キャラ):光合成の能力を持たない変わった寄生植物。
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約7分(約2100文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
語り:
通りかかったその河川敷の草むらに、
一面に黄色いラーメンをぶちまけたような場所があった。
でも、ラーメンではない。
これは……
図鑑で見たことがある。
私:
……ネナシカズラさん。
あなたと話してみたかった……
ネナシカズラ:
……俺は、お前とじゃれあうつもりはない。
語り:
私は、あるきっかけで植物と話せるようになった。
それで、ときどき話をするようになった。
もちろん人気がない所で。
私:
チョウセンアサガオさんに聞いて
あなたのことを知りました。
『騙して奪う』能力に長けていると。
ネナシカズラ:
……それがどうした。
私:
あなたは、光合成の仕組みが無い。
それどころか、
発芽すると、寄生する植物に自分を食い込ませて、栄養を吸い取り始める。
その段階まで行くと根まで退化させてしまう。
どうして、そんな生き方を選んだのですか?
植物なのに、光合成も、根すらも捨ててしまうなんて。
ネナシカズラ:
(ふざけたように)
なぜ人間は生態系を破壊しつくすほどの兵器を持つ生き方をした?(笑う)
私:
…………
ネナシカズラ:
ご立派なチョウセンアサガオと
「人間はなぜ高い知能を使い騙して奪い取る生き方をするのか」
そんな話をしたらしいな。
聖人君子のつもりか?
くだらん。
俺たちの先祖が選んだ道をとやかく言われる筋合いはない。
私:
とやかく言いたいんじゃないんです。
あなたのことを調べて単純に凄いと思ったんです。
あなたたちは、どうやるのかわからないけれど、
数千万年前、違う植物たちの遺伝子を盗んだ。
すみません。言い方が悪かった……遺伝子を取り込んだ。
だから、宿主をコントロールして、さらにいろんなものを奪える。
ネナシカズラ:
お前が取材した植物の噂は聞いている。
お前、難病を抱えてるんだってな。
特殊な能力に憧れるのは、ふつうになれないコンプレックスの投影か?
変に暴力的なことに食いつくのも、自分の力の無さの裏返しだろ?
私:
…………
ネナシカズラ:
……絶え間ない絶望と苦しさを感じたのなら、お前も思ったんじゃないか?
幸せそうにしている奴らから、それを奪ってやりたいって。
いや「奪う」のではなく「破壊」だな。
「奪う」ことと「破壊する」ことは違う。
本当の意味で「奪う」のはスキルがいる。
ときどきとち狂った奴が、やるな。
支離滅裂な他者を巻き込んだ自爆を。
あまり知られてはいないが、自然界でも、八つ裂きにされるまで、止まらないバーサーカー個体は出て来ることがある。
やってみたいって思ったんじゃないか?
『愛はスキルである』と言った精神分析医もいたそうだな……
お前は、人を愛するスキルすら無いんじゃないのか?
語り:
話していて、息苦しくなった。
スギナもどこで得たのか他者に対する異常な知識と洞察力があったが
このネナシカズラは容赦なく暗部や弱さに迫ってくるパワー。
これが彼らのエネルギーの方向なのだろうか。
私:
…………健康に歩いている人を見て
それだけで腹が立ったことがあります。
ネナシカズラ:
ほらな。
私:
……でも、自分に力が無くてよかったと思っています。
暴力を……奮う力が、自分には無い。
ネナシカズラ:
虚しい響きだ。それは紙一重だということがわからないわけでもあるまい。
私:
あなたに言われなくても、自分の精神的な弱さは、わかっているし、
それが自分の中にある残虐性に繋がりかねないのもわかっています。
私は心も体も弱くて生活が大変だ。
健康な人にとって当たり前のことがたくさんできない。
そして、心も迷いっぱなしだ。
私は自尊心が低くて人を愛するスキルもあなたの言う通り低いと思う。
でも……善悪じゃないんだ。
人から奪ったり、破壊したりする生き方は選びたくない。
昔、人を傷つけたことがある。傷つけられたこともある。
あれは酷い。
ああいう状態になりたくない。
あれが、快感になる人もいるのは知っている。
そういう人も見てきた。
自分や他人を破壊して笑ってる人間を。
でも、自分は、そうなりたくない。
それに「愛」が「スキル」なんだったら、学ぶことができるはずでしょう?
ネナシカズラ:
暴力的になった者が、最初からそうしていると思っているのか?
フランケンシュタインの怪物も最初は良心的だった。
愛を求めていた。
しかし、結末は、ああなった。
堕落した天使は悪魔になる……
どこまでやせ我慢が続くかな。
力が無いゆえに、残虐になる奴らもいる。
せいぜい、頑張ってみることだな。
それともう一つ教えてやろう。
私:
……?
ネナシカズラ:
お前は苦労するだろう。
私:
そんなことは、あなたに言われなくても……
ネナシカズラ:
違う。
お前は境界線を侵している。
人間なのに人ならぬものと対話した。
そして、狂気のふちを見たような話をしていたな。
今のお前は居場所が見つからんだろう?
覚えておけ、境界線を侵す者は焼かれる。
私:
何を言ってるんだ!
……あなただって、自分と他者の境界線を破って、生きてる癖に!!
ネナシカズラ:
そう……俺は境界線を破って生きてきたからこそ……
……深淵を見たからこそ言うのだ。
いや、深淵の側から言っているのだ……
私:
…………