愛情は傘の大きさ

登場人物

  • 私(女):小学生女子(10歳くらいのイメージ)
  • 男子小学生(男):「私」の同級生

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約3分30秒(1000文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

雨が降ると、私は憂鬱だ。湿気で髪の毛がくるくるになってしまうし、ズボンの裾が濡れてしまって具合が悪い。何より……傘を使わないといけなくなる。私の傘は、特別製だ。子供4人くらいは楽々と入れるくらい大きくて、軽くて丈夫な金属と、ライオンが噛みついても破れない合成布で作られている。そして、見た目がとてもいかつい。こんな傘を12才の女の子に持たせるなんて、どうかしている。そう、私のお父さんはどうかしているんだ。何かにつけて、おかしな発明品を私に押しつけてくる。私のパンパンに膨れ上がっているランドセルには、通常の20倍の音が鳴る防犯ブザーや、 護身用のスマホ型スタンガンなんかが たくさん詰まっている。

私「はぁ」

ため息をついているうちに、バス停に到着した。 バス停には、クラスメイトの男子が一人、 雨に濡れながら立っている。

私「ねぇ」

男子は反応しない。

私「ねぇ、傘持ってないんだったら、入りなよ」

男子「別に、いい」

私 「いいから入りなよ。視界の隅にびしょびしょなのがいると、 うっとうしいから」

男子「え、ひど……そんな言い方しなくても、よくない?」

私は、半ば強引に男子を傘に入れてあげた。

男子「随分、大きい傘なのな」

私「有名だから、知ってるでしょ? うちのお父さんは、自称発明家だから、変なものばかり持たされるの」

男子「へぇ! この傘、手作りなのかよ! すげぇなあ。 作るの、大変だったろうな」

私 「え?」

男子小学生 「ほら、このつなぎ目のところとか、 結構、複雑なつくりしてるし……。っていうか、フツー、 傘を手作りしないし」

私「そっか」

男子「お前、大事にされてるんだな」

私「、、、私が?」

男子「うん」

バスが来て、男子は去っていき、 入れ違いに、白いワゴンが停車する。 お父さんの車だ。

後部座席に乗り込んでから、いつものように、 私は頬を膨らませる。

私「別に、迎えに来なくてもよかったのに……。 傘もちゃんと持ってるし、 バスの定期もあるし」

まだまだ文句は言えるんだけど、 これくらいにしておこう。

私「でも、ありがとう」

窓の外を見ていた目線を正面に戻す。すると、バックミラー越しに、お父さんが笑ってるのが見えた。