登場人物
- 先輩(男):大学三年生。映画サークル所属
- 私(女):大学二年生。映画サークル所属
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約6分30秒(1988文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
SE<居酒屋のガヤ>
先輩 「羊谷(ひつじや)って好きな人、いる?」
私 「へけ!」
私M 私は、飲んでいたハイボールのグラスをおでこにぶつけてしまった。
先輩 「ぷ。なんだよ。動揺しすぎ。――もしかして、聞いたらまずかった?」
私 「べ、別に、まずかないです。ただ、急だったから。
さっきまで、来年つくる映画のテーマの話だったのに――。
せ、先輩は? どうなんですか?」
先輩 「俺? 俺は、そうだなぁ。内緒」
私M 先輩は、いたずらっぽくニヤニヤしている。
私 「ま、知ってますけどね。相原さんでしょ?」
先輩 「なんだよ。なんで知ってんだよ」
私 「見てたらわかりますよ。先輩、わかりやすすぎ。
ずぅっと相原さんを目で追ってるんだから」
先輩 「まじかよ。お前、すげーな」
私 「先輩こそ、すげーですよ。
どうしてそこまでストレートに感情を出せるんだか」
SE <畳から立ち上がる衣擦れの音>
先輩 「どこいくんだよ?」
私 「お先に失礼いたします」
先輩 「なんだよ、まだ早くね?」
私 「もう10時回ってますよ? 良い子は寝る時間です」
SE <ガラガラガラ>
SE <アスファルトをコツコツ歩く音>
私M 「映画サークルの飲み会なのに、誰も映画の話なんかしてない。
このサークル、まじで終わってる。
唯一、映画の話ができる先輩も、相原さんが帰ったら、全然、気が抜けちゃってる。
はあぁ~。――もう、辞めちゃおっかな」
先輩 「おい、羊谷(ひつじや)」
私 「へけ!」
先輩 「ぷ。お前、なんだよ、それ」
私 「せ、先輩こそ、急に肩つかまないでよ。やばい人かと思った」
先輩 「悪い。――お前、呼んでんのに全然気づかないからさ」
私 「どうしました? 会費なら、ちゃんと払ってますよ」
先輩 「ちげぇよ。危ないだろ。フツーに。夜道を一人で歩いてたら」
私 「へ? ――あは! どしたんですか? 『アバウト・タイム』でも観ました?」
先輩 「いや、『マッド・マックス』だな」
私 「えー。私、まだ死にたくないです」
先輩 「じゃ、駅まで送ってやるよ」
私M 「先輩は、サークルで浮いている。
荒っぽくて、ノンデリで、映画オタクだからだ。
でも、先輩のぶっきらぼうな優しさが、私にはちょうどいい」
先輩 「お前、なんでニヤニヤしてんだよ。こえぇよ」
私 「うるさいな。『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング思い出してたんですよ」
先輩 「アイツ、そんなイケメンか? ちょっとゴリラ入ってね?」
私 「ライアンがゴリラ2入ってるとしたら、先輩はゴリラ7入ってますね。ごりなな」
先輩 「なんだ、コイツ――。もう送るのやめよっかな」
私 「はあ? 私が暴漢に襲われてもいいんですか? 死んじゃったら化けて出ますよ?
『ゴースト/ニューヨークの幻』みたいに」
先輩 「ずいぶんロマンチックに化けて出るんだな」
私 「あ、地下鉄のお化けの方ですよ」
先輩 「台無しだよ。アイツ、なんかすげぇ汚らしいんだよ」
私 「ふふふ。――先輩、ほんとに映画好きなんですね」
先輩 「別に。暇だから量観てるだけだよ」
私 「ふーん。――映画とぉ、――相原さんだったらぁ、どっちが好きですかぁ?」
先輩 「なんだそりゃ」
私 「答えてくれないの?」
先輩 「くだらねぇ」
私 「映画も相原さんも大嫌い。消えてなくなればいい」
先輩 「おいおい、過激だな」
私 「――なんで私じゃダメなんですか? 全然納得できないんですけど」
先輩 「お前……。酔ってるな? いいのか? 明日、後悔するぞ。
『ハングオーバー』みたいになるぞ」
私 「真面目に答えて」
先輩 「――別に、理由なんかねぇよ」
私 「ふざけてる。そんなんで、納得できるわけない」
先輩 「――そもそも、俺に説明する義務なんてないだろ、ほら、駅だ。じゃあな」
私 「『アメリ』のブルーレイ」
先輩 「はあ?」
私 「アメリのブルーレイをまだ返してもらってないです。返してください。今すぐ」
先輩 「あーアレな。あー。……どこにあるかわかんなくなっちゃってさ」
私 「ひどぉい! 私の宝物なのにぃい~!」
先輩 「キャラ変わりすぎだろ。でもまぁ、そうだな。こればっかりは、俺が悪かったよ」
私 「許してほしい?」
先輩 「あ、ああ」
私 「じゃ、私を送ってください」
先輩 「もう駅まで送ったろ。酔っ払い」
私 「違います。家まで送ってください」
先輩 「――そんなんでいいのかよ」
私 「そんなんで十分です。家に着くまでに口説いて、お持ち帰りしちゃいますから」
先輩 「どんだけ肉食なんだよ。――お前、もっと自分を大切にしろよ」
私 「大切にしてますとも。ただ、先輩の方がもっと大切なだけです」
先輩 「――はあぁあ。どうやら、本気みたいだな。多分、無駄だと思うぞ」
私 「無駄なもんですか。私、相原さんに負けてる気がしませんし。
……顔以外は!」
先輩 「別に顔に惚れたわけじゃねえよ」<<フェイドアウト開始>>
私 「はー? じゃあ私の方がいいじゃん!」
先輩 「だからよぉ、そういうのは理屈じゃなくて」
私 「ダメです。納得できません。わかるように言ってもらわないと」
<<フェイドアウト>>
完
