神頼みの結果

登場人物

  • 俺(不問):大学入学共通テストを間近に控えた受験生。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約5分(1440文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

「引く」というテーマで書いた作品です。2026年1月公開の作品ということで、この時期に「引く」と言ったらおみくじだろ、という安直な考えで書きました。初詣系の作品としては「参拝」もあるのですが、また違った雰囲気にできたかなと思います。『●宮ハルヒ』的モノローグの中、声に出して言いたい日本史用語第3位くらいにありそうな「禁中並公家諸法度」を召喚するのが山場です(モノローグだから声に出してないけど)
1位は「墾田永年私財法」だと思いますが、さすがに大学受験には出ないだろってことで泣く泣くボツ。楽しんでください。

本文

◆シーン:学習塾

   SE:シャーペンで字を書く
   SE:紙をめくる
   SE:わずかな息づかい

俺(モノローグ):

 走り回るお坊さんを幻視するほど忙しかった十二月があっという間に過ぎ去り、迎えた新年。

 世の中に漂うめでたい空気、束の間の休息ムードをよそに、俺は、俺達は、焦燥と、不安と、息詰まる緊迫感の中にいた。

 相対するは、知恵と技能を司る門番……を模した仮想敵。いわゆる「模擬テスト」という名のそれは、ただ白い紙の上に文字として在って、にも関わらず、強大な壁として俺の前に立ち塞がっていた。

 俺は必死に脳を回転させ、持てる知識と閃きの限りをもってそれに立ち向かう。血流と電流が頭蓋の中を駆け巡り、記憶をつなぎ合わせて絞り、濃縮し、やがてひとつの「回答」を形作った。俺は、俺の意思であり、代理人であるそれを、解答用紙という戦場に召喚する。

 召喚プロセス起動。前頭前野ぜんとうぜんやによる目的の形成――目的を「回答の記述」に決定。

 右腕の動作プログラムを申請――受諾。運動前野うんどうぜんや補足運動野ほそくうんどうやによるプログラムを構築。……成功。大脳皮質だいのうひしつより皮質脊髄路ひしつせきずいろを通って脊髄へ送信。完了。

 脊髄から筋肉へ指令を伝達。運動開始。右手からの感覚フィードバックに従い、筆圧、方向を適宜修正。眼球からの視覚情報で結果を確認。だいぶ崩れているが、読めないほどではないと判断。誤りなし。召喚完了――

 さあゆけ、俺の回答召喚兵! 「禁中並公家諸法度きんちゅうならびにくげしょはっと」よ! お前がこの問題を倒すのだ!

   SE:チャイム
   SE:足音
   SE:自転車が通り過ぎる

俺(モノローグ):

 自己採点した答案用紙を鞄にしまい込み、俺は学習塾をあとにした。七十四点という微妙な点数のそれは、大学入学共通テストを間近に控えた俺の心に重くのしかかる。

 志望校のレベル的にそう悪い点数ではないが、安心だと胸を張れる感じもない。むしろ英語のことを考えると、日本史ではもう少し点数が欲しいのが本音だ。

 こりゃ本当に、今年ばかりは俺にお正月はないな。冬休みも残り数日、限られた時間でできることをしなくては。

 ……あ、そうだ。せっかくだからあそこに寄ってくか。

◆シーン:神社

   SE:お賽銭を入れる
   SE:神社の鈴を鳴らす
   SE:二拍手

俺(モノローグ):

 ……これでよし。

   SE:参道を歩く

俺(モノローグ):

 俺は少しばかり回り道をして、近所の神社にやってきた。大きくて有名な神社ではなく、地域の、こじんまりとした守り神様だ。

 正直言って普段は気にも留めていないのだが、今ばかりはわずかばかりでも力を貸してもらえたらと、謝罪と願いを込めて参拝した。厚顔無恥な自覚はあるが、まあ相手は神様だ、きっとこれくらい、許してくれるだろう。

 ついでに、おみくじも引いてみるかな。

   SE:おみくじを引く

俺「……なにこれ」

俺(モノローグ):

 てっきり大吉や小吉といった結果が出ると思っていたのに、とてつもなく長い字面が視界に飛び込んできた。きち……きょう……すえ? 吉なのか凶なのか、末吉なのか大吉なのかもさっぱり分からない。

 調べてみると、「吉凶未分末大吉きっきょういまだわからずすえだいきち」と読むらしかった。意味は、「吉か凶かはまだ分からないが、努力次第では大吉になる可能性がある」とのこと。

 ……なるほど? 要するに「私にもどうなるか分からんからまあ頑張れ」ってことですか神様。

 ふっ、しょうがない。神様にすらそう言われたんじゃ、もうちょい頑張るしかないっすね。