アフター・バレンタインデー

登場人物

  • 僕(男):17歳。男子高校生。
  • マナ(女):17歳。「僕」の幼馴染。同じ学校で同学年。
  • 馬渡(女):17歳。「僕」の友達。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約7分30秒(2314文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

僕N       :付き合ってるか微妙な女友達とバレンタインデー当日に遊びにいくことになり、ドキドキしながら過ごしたけど、結局、期待してたチョコはもらえず、だけど諦め切れず解散した後もその女友達を尾行してたら幼馴染の女の子と遭遇してなぜか一緒に尾行することになった。

今、僕は幼馴染の牛崎マナと一緒になって、僕の想い人である馬渡ミロがコンビニから出てくるのを道路を挟んで向かいの歩道の街路樹の陰で待っている。

マナ       :良くないと思うなぁ。ストーカーは

僕          :ストーカーじゃない。僕は馬渡さんと付き合いかけてるんだから、これは身辺警護の部類だ

マナ       :きっつぅ…。言い訳が完全にストーカーのソレですわ。もう17歳だし、少年法は君を守ってくれないぞ?

僕          :うるさいぞ。大体なんでマナがついてくるんだよ

マナ       :そりゃあ、犯罪に手を染めそうな幼馴染を見かけたらほっとけんでしょう。…悪いことはいわない。諦めて他にいったほうがいいと思うなぁ

僕N       :マナはもじもじと体を若干捩らせて自身の靴の爪先を見ている。以前から思っていたことだがマナは僕のことが好きなんじゃないだろうか。
しかし、僕には馬渡さんという人があるから、あまり気にかけてはいられない。

僕          :僕にはまだ希望はある。今はまだ午後4時。この後でチョコをもらえる可能性は十分にある

マナ       :いやいや、さっきまで一緒にいたでしょうが。渡すチャンスだっていくらでもあったでしょ

僕          :うっかりチョコを用意するの忘れてたとか

マナ       :忘れられてる時点でお察しだよねぇ

僕N       :僕が二の句を継げずにぐぬぬと唸っていると、馬渡さんがコンビニから出てきた。

僕          :おい、出てきたぞ。なんか手に持ってる。あれは…

マナ       :ファミチキだね

僕          :チョコじゃないのかチキショウ。ワンチャン、コンビニで僕のためのチョコを買うかもと思ってたのに…

マナ       :もう気が済んだ? これで君はファミチキ以下なんだってわかったでしょ?

僕          :そうなのか…? 僕はファミチキ以下…?

マナ       :その通り。もう諦めるしかないよねぇ

僕N       :マナに挑発的な眼差しを向けられていささか怯んだがそうはいかない。僕は尾行を続行する。マナは舌打ちをしながらも早足でついてきた。次に馬渡さんはスポーツジムに入り、30分ほどで出てきた。プロテインバーと思わしきものを握っている。マナがプロテイン以下と呟いたがもう無視することにした。

寄り道が止まらない馬渡さんはゲーセンに入り、また30分ほどで出てくる。手にはスヌーピーのちっちゃいぬいぐるみを持っていた。嬉しそうだった。マナはやはりスヌーピー以下と呟くが別に悔しいとかはなかった。スヌーピーは確かにかわいいからだ。

そしてとどまるところを知らない馬渡さんは移り行く街並みを眺めながら小洒落たイタリアンレストランに入って行った。マナは大きくガッツポーズを決めた。勝利を確信したようだ。

マナ       :オッシャア! イケてるJKがバレンタインにイタリアンレストラン入っちゃったらおしまいですわ! 彼ぴとデートですわ!

僕          :そんな…。馬渡さんに彼氏はいないはず

マナ       :まだそんなことを…? かわいそうに…。君に名前を授けよう。

そう。君の名は『キープ』

僕          :嘘だろ…。僕と遊んでるとき、あんなに楽しそうだったのに

マナ       :ガッハッハぁ! 恋は盲目ですな! まあいい経験じゃん? キープくん! あれ? どした? ほんとに落ち込んじゃった?

僕N       :僕はあまりのショックに会話する気も失せてただ家に向かって歩き出した。とりあえずベッドで横になりたい。しばらく忘我の境地での徒歩を続けていた僕はいつの間にか家のすぐ手前の交差点まで着いていて軽く驚いた。

SE<足音>

マナ       :あのー

僕N       :耳元で声が響いて驚いた。マナだった。付いてきてたのか。気づかなかった。

僕          :…マナの家、とっくに通り過ぎてるだろ? どした?

マナ       :さすがに悪ふざけが過ぎたっていうか、やり過ぎたっていうか、…ごめん

僕          :別にいいよ。今はそれどころじゃないっていうか

マナ       :あのさ、これ

僕N       :マナがかばんの中からリボンのついた小さな箱を差し出す。

僕は両手で受け取り、ありがと、と言う。小さな声だったから聞こえたか分からない。

マナ       :今はさ、辛い気持ちかもしれないけどさ、…なんていうか、

…君を見てる子は他にもいるよって。それだけ言いたくって。

じゃあね。元気だせよ

僕N       :マナは小走りで逃げるように去って行った。

僕はその場にとどまって動き出せずにいた。急に心臓がバクバク鳴り始めたのだ。

マナは本当に僕のことが好きみたいだ。

意識すると落ち着かない気分になって謎の焦燥感で眩暈がした。

とにかく寝よう。僕は忘我の境地で歩行を再開した。

次の日、寝不足でふらふらと徒歩通学をしていたら背後の人物に肩を叩かれた。

馬渡       :おはよ。昨日は楽しかったね

僕N       :馬渡さんだった。

僕は謂れのない背徳感に胸中を抉られながら、うん楽しかったと早口で返した。

馬渡       :はい。これどうぞ!

僕N       :馬渡さんはお洒落な柄の手提げ袋を僕に差し出す。

嘘だろ、と無意識に呟く。まさか、そんな…。

馬渡       :チョコ。ほんとは昨日渡したかったんだけど、間に合わなくて

僕          :あ、あひほほ

僕N       :僕は、ありがとう、と言いたかったが口の中がカラカラに乾いており、舌が喉にくっついて、まともに喋れなかった

馬渡       :あのね、叔父さんがイタリアンシェフやってて。昨日、教えてもらいながら

作ったんだー。食べたら感想聞かせてね!

僕N       :手を振りながら登校中の他の女子と合流していく馬渡さんを見ながら、俺はこれまでに体験したことのない悪寒を感じていた。…いる。
背後に、いる。マナがいる。確実に、マナの気配を感じる。気配というか、殺気というか。

僕は意を決してゆっくりと振り返った。