ゾンビ漫談

登場人物

  • 支配人(不問):ショー劇場の支配人。MC。
  • ゾンビー富岡(男):中年男性

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約8分30秒(2438文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

<SE>ショータイム

<SE>歓声、拍手

支配人:さあ! 続いては、驚異の新人の登場だ!

見た目はちょぉっと近寄り難いが 中身は気さくなジェントルマン!

いつか、この劇場のスターになるんじゃないか、なんて 私は睨んでますよ?

<SE>口笛(ピューピュー)

支配人:腐乱上等! 悪臭上等! いつでもハエがたかってる!  ゾンビー・冨岡の登場だーーー!

<SE>床が軋む音

<<※以降、すべて富岡の一人漫談>>

ヴヴヴヴヴヴヴヴ~ ああああああああ~~ ヴぁおヴぁーーー!!!

なんつって、言ってますけどもねー。

今日はね、アタクシみたいなゾンビでもね、こうやって流暢にしゃべれるんですよーっていうのを皆さんにお伝えできたらなぁ、なんて思いますけどもー。

……え? ゾンビがそんなにしゃべれるわけない?

いやいやいや、 そりゃあ偏見ってもんですぜ! こうやってしゃべれてるじゃあないですか。

 ……え? お前はゾンビじゃない、人間が特殊メイクしてるだけだろって?

ははぁ、そうきましたか!

いいでしょう、いいでしょう! それじゃあ、 まずは、 コレをご覧ください!

ほら、アタクシのこの左腕をそろっとまくりあげてみりゃあ、ほら!

<SE>悲鳴

ほらぁ! 見たでしょう? お客さぁん!   

……え? そんなのメイクでどうにでもできるって? 参ったなー。

じゃあ、アタクシのお腹でもご覧になります? ほらほら!

<SE>悲鳴

これでどうです? どうも内臓が腹に収まんなくなっちまってねえ

どうしたもんか、悩みのタネでさぁね!

お? お? なんだか、皆さん、おとなしくなっちまってぇ!

さては、ゾンビは初めてかい? いやぁ! そんなわきゃあないよな!

でも、確かにアタクシみたいなのは珍しいかもなあ!

そんじゃあ、まあ、今日はアタクシがこんな姿になったいきさつでもお話ししましょうかね。

皆さん、ご承知の通り、こんなご時世だ。 どこもかしこもゾンビだらけ。

アタクシもね、ゾンビにはなりたくないよーってなもんで。必死に逃げ回ってたわけですよ。

そうしてね、逃げ回ってるうちに、とあるシェルターでね、運命的な出会いがあったんですよ!

そりゃあ、もう! ぺっぴんさん! アタクシの思い描いてた理想の女性でね。

一目惚れっつーのはああいうことを言うんだね。

……え? こんなご時世に恋愛なんて不謹慎だって?

いやぁ、こればっかりはね。本能だから。しょうがないってなもんですよ。

人間が恋をするのも、 ゾンビが人に噛みつくのも。

はは! そんでね、アタクシは猛烈にアプローチしたわけだ。好きです! 愛してます!ってね。

……これがね、アタクシのやり方なんですよぉ。 押して押して押しまくる!ってね。

そうしたらね、その彼女には、 どうやら恋人がいるってんだ。

しかもね、いけねえことに、どうやら彼女を助けるためにその彼氏が身代わりになって助けてやったらしい。

これはまずい! そんなことがあっちゃあ、彼女は未練たらたらだ。

いつまでもあの人を待ってるわ!、なぁんてぬかしやがる!

そんでね、彼女、その彼氏の写真をみせて 惚気(のろけ)てきやがるんですよ。

その写真の彼氏が男前でねぇ、こりゃあ、どうしたもんか。

ワタシのこの顔面じゃあ厳しいなーってね。

<SE>笑い

……だからといって、 ねぇ、 いい女なんですよ、彼女。

とても諦めきれない! そうやって悶々として過ごしてたんですけどね。

ある日、アタクシにもツキがまわってきた。

まだあんまり荒らされてないコンビニを見つけてね、その中で食糧をさがしてたんですよ。

そうしたらね、先客がいてね。若い男だった。

どうにも、足を怪我しててね、動けないようだった。

顔を見てね、ピンときましたよ。

信じられない! なんて幸運なんだろう!

あの、彼氏ですよ。彼氏。

こりゃあ、ツイてる!

さっそくね、その彼氏に声をかけましたよ。

おい! 大丈夫か! アタクシが来たからにはもう安心だぞ!ってね。

そんでね、おんぶして、シェルターまで運んでやるぞ、ってね。 申し出たんですよ。

そしたらね、彼氏はありがたがってねぇ、何度も何度も言うんですよ。 ありがとう、ありがとうって。

アレにはもう、 ほんと、笑っちゃったなぁ。

そうしてね、シェルターまで安全な道を通って帰ろうとしたんだけどね。

いけねぇ! 道をまちがえた!ってね。

ドジなアタクシは間違えてゾンビがうようよしてる危ない危ない道を通っちゃったんですよ!

こいつはピンチだ! 急いで逃げないといけない!

そうするとね、邪魔な荷物は捨てなきゃあいけない!

そんでね、荷物をね、ちょいっと捨ててきたってわけでさ!

<SE>ざわめき

一応ね、万が一があるから、逃げてる途中でちょいちょい振り返ったんだけどね。

OK、OK。しっかりゾンビにもみくちゃされとりましたわ。 ゾンビが彼氏にガブリガブリ!

痛いよ怖いよーってね。

それからアタクシは尊い犠牲のおかげさまでね、シェルターまで帰って、

彼女に事の顛末を話したらね。 彼女、わんわん泣いちゃって。

ここは、アタクシがしっかりしないとな! しっかり慰めてしんぜよう!

そうしてね、寂しい彼女とワタシの距離が縮まっていくわけだぁ…… なんてね。

妄想に鼻の穴を膨らませてたらね、彼女、いつの間にかシェルターを飛び出して行っててね。

まじかぁ。信じられませんよ……。

ゾンビの彼氏のとこまでいって、抱きついて、噛まれちゃって!

自分もゾンビになってんの!

うわー!そんなのありかよ!ってね!

あまりのことにね、呆然と立ち尽くしてたら、 肩をちょいちょいって叩かれてね!

なんだよ今いそがしいんだよって、 ちょっとばかし文句いってやろうと思って振り返ったらね!

そこにはなんと! おじさんのゾンビ! 

ぼーっとしてる内にね、捕まっちゃったわけ!

そんで、左腕をがぶり、いかれちゃったわけよ!

なんで、おじさんのゾンビなの! せめて、綺麗なお姉さんのゾンビに噛まれたかったなー!

……ってなわけで。アタクシのお話はこれでおしまい。

次は、なんと! 今お話しした、彼氏彼女による夫婦(めおと)漫才ですよー。

どうぞ、お時間ある方は観てってくださぁーい!

<SE>拍手・歓声

<SE>ショータイム