だいそん様

登場人物

  • 神主(男):40代男性
  • おじ(男):60代男性

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約4分30秒(1357文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

神主N:この神社では古くから伝わる意味不明な言い伝えがある。

それは、この神社で、祀っている”真実の壺”。

こいつに、いつか、だいそん様が戻ってくる、というものだった。

この神社の神主である僕も、これだけしか知らないのだけど。

だいそん様ってなんだ? 戻ってくるってのは、どういうことだ?

なにもわからない。

ただ、神主の勤めとして、今日も年に一度のあの祭りをやらなければならない。

(BGM)おごそか

(SE)がやがや

神主:皆さま、お忙しいところ集まっていただきありがとうございます。

この場には、この神社のご近所様から選ばれた10名の方にお越しいただいています。

それでは、早速、手順を説明しますので、こちらの奥までお越しください。<おじ、カットイン>

おじ:ふわぁぁぁーーーあ!

神主:あの、すみませんが、今しばらく辛抱願いますか、すぐ終わりますので。

おじ:んだぁ!? こっちはたまの休みに顔出してやってんだ!

あくびぐらい好きにさせろってんだ!

神主:はぁ、すみません

おじ:ったくよぉ!

神主:えー、では手順を。まずは、皆さまにこの祭壇に手を合わせていただきます。

おじ:ずごごごごぉー(鼻をかむ)

神主:えー、それから、僕の方を向いて座った状態で、この壺を膝の上に抱えてください。

おじ:ずごごぉー(鼻をかむ)

神主:あの!

おじ:へへ、すまねぇな! 鼻がでちまってよ!

神主:コホン、えー、それから。

僕が「なんじ、ワケミタマをうけ、でもどりし、ウジガミか」と訊ねますので、しずかに首を大きく横に振ってください。

おじ:ぐーぐぉー(いびき)

神主:決して、声を出してはいけませんよ

おじ:ぐーぐぉーぐぉーぐぉーぐぉーぐぉーぐぉーぐぉーぐぉー、、、(いびき)

<エコー&フェイドアウト>

神主N:正直、あの、ジ……おじいさんは、僕の説明をまったく聞いていないので、不安はあった。

でも、簡単な儀式だし、もし、なにか手順を間違えたって、別に、なにかお咎めがあるわけじゃない。

そのときの僕は愚かにもそんなことを思っていた。

「どうぞ」

僕は、ひとり、ひとり、参拝者を祭壇の前へ案内していく。

そして、あのおじいさんの出番がやってきた。

おじ:よっこらしょ!

神主:どうぞ

おじ:(雑に手を二回たたく)、隣のババァが早くくたばりますようにー!

神主:(小声)このジジィ……

おじ:次は壺を持ちゃあいいんだろ!? ほら、よっと!

神主:なんじ、ワケミタマをうけ、でもどりし、ウジガミか

おじ:はぁぁ!? なんだそれ、ブハハ!

へいへいそうですよー。俺がウジガミ様でぃ

神主:(小声)やりやがったよ、、、

神主N:やれやれ、まあ仕方ない。とっとと切り上げよう。

おじいさんに退室を指示しようとしたそのとき、

壺からかたかたと音が鳴る

(SE)かたかたかた

おじ:なんだぁ!? 気味のワリぃ壺だな!

お! おお!?

神主N:なんと! ジジィの体が宙に浮いている!

おじ:なんじゃこりゃあ! なんじゃこりゃあ!

神主N:ふわふわと宙に舞うジジイ

(SE)ずごぉぉぉぉー

おじ:うおぉぉぉぉお-!!!

神主N:そして、壺が、ものすごい勢いでジジィを吸い込んだ!

(SE)ポン

神主:えー……。どうすんだよ、これ

神主N:僕はその場で呆然と立ち尽くした。

神主N:それから少し経った後、僕は、神社の神主を辞めた。

ジジィに対する罪滅ぼしなどではない。

ジジィをものすごい勢いで吸い込む壺をみて、ある製品を思いついたのだ。

僕は、掃除機のメーカーを立ち上げた。

他とは一線を画した猛烈な吸引力の掃除機は世界中で強烈なブームとなった。

会社の名前は「だいそん」。もちろん、あの神社で祀っている、だいそん様から名付けた。

そして、ジジイを吸い込んだあの壺は、今でも社⾧室の奥に祀っている。

時折、会社の従業員から、あの壺はなんですか、と聞かれるが、僕はいつも返事に困ってしまう。