焼肉四天王、暁に死す

登場人物

  • しんちゃん(男):高校二年生。17歳
  • 彼女(女):高校二年生。17歳
  • 焼肉屋の店長(男):37歳
  • カルビのアツシ(男):20歳
  • ホルモンのカナエ(女):20歳
  • ホルモンのジュン(男):20歳

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約10分30秒(3126文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文


しん:あ〜、お腹すいたぁ〜

彼女:がんばって! もう少しでお店に着くから!

しん:う〜、もうムリ〜

<SE>バタン(倒れる音)

彼女:ちょっと! しんちゃん! しんちゃん! え? ほんとに!? 大丈夫? しんちゃん!<リバーブ、フェードアウト>

<SE>ジュー、ジュー(焼肉を焼く音)

しん:… んん、う〜ん

彼女:あ! しんちゃん! 大丈夫? もうびっくりしたよぉー。お腹空き過ぎて気絶しちゃうなんて!

しん:そうか、僕は… 。こ、この匂いは…

彼女:そうよ〜。しんちゃんの好きな焼肉よ〜 

<SE>グギュルルルルゥ〜

しん:ウガウ! ガウ! ガウ!

彼女:しんちゃんったら激しいのね…。まるでケダモノのよう… 。あ! 待って! まだ焼けてないから! ああ…」

<SE>ガシャン! ガシャ! ドガシャラン!(食器の音)

しん:ハフ! ハフ! フー ! フ〜

<SE>ドカ食い

彼女:もー、しんちゃんったら〜。まだそのお肉、生焼けだよ〜? お腹壊しても知らないよ〜?

<SE>一人の拍手

店長:いや〜、君、見どころあるね! ナイスファイト!

<BGM>真打ち登場

しん:え? 誰?

彼女:あ、さっきはどうもありがとうございました! しんちゃん! この人が、気絶したしんちゃんをこの店まで連れてきてくれたんだよ!

しん:ああ、それはどうも

店長:そんなことはいいんだよ! それより、君の食べっぷりが気に入ったよ! じゃんじゃん、肉、持ってくるからさ! どんどん食べちゃってよ!

彼女:あの、この人、もの凄い大食いなんで、あんまり調子に乗せないでくださいよ〜。小学生の時のあだ名が「焼肉王」だったくらいなんですから〜

店長:んん? 焼肉王?

彼女:はい。小学生の頃、学校行事で間違えて大量発注したバーベキューのお肉を全部食べちゃったんで、そんなあだ名がついたんですよ〜。びっくりですよね〜。お肉が10 キロ以上あったんですよ?

しん:やめてよ、マナちゃん。なんか恥ずかしいよ

店長:肉が10キロ…。まさか、君があの時の…?

彼女:え? どうかしましたか?

店長:… いや、なんでもない。ちょっと、君に会わせたい人たちがいるんだが、いいかな?

彼女:え? 何ですか、急に… 。どうする? しんちゃん?

しん:僕は構わないけど…

彼女:あの、どういう人たちなんですか?

店長:焼肉四天王だ

彼女:は?

店長:よし! 君たち、入ってくれ!

アツシ:どうしたんだい? 店長

<BGM>真打ち登場

店長:紹介しよう! 彼は、カルビのアツシ!

<SE>ザザン!

彼女:はあ…

店長:焼肉では絶対にカルビしか注文しない信念をもっている

彼女:いや、ただの偏食じゃないですか

アツシ:よろしくなぁ!

<BGM> 元気なアイドルソング

カナエ:みんなぁ! ハチノス!

店長:彼女はホルモンのカナエ!

<SE>ザザン!

店長:挨拶はホルモンの部位でやらしてもらってます

彼女:やらしてもらってます?

カナエ:よろしくセンマイギアラレバー!

彼女:なんでそこまでしてキャラ作ってんですか?

ジュン:なんだか騒がしいな。まるで、マルチョウを焼き始めたときのようだぜ?

<SE>ザザン!

店長:彼はホルモンのジュン!

<SE>ザザン!

店長:ホルモンの部位で、物事を例えるのだ!

彼女:例えるのだ! じゃなくて。ホルモンのキャラ、二人目じゃん。かぶってんじゃん

ジュン:ホルモンの座は、渡さねえ! 俺はしつこく喰らいついていくぜ! フライパンにこびりついた、テッチャンのようにな!

彼女:あ、わかった! この人たち、ホルモンのキャラを奪い合ってるから、キャラづくりに必死なんだ!

しん:マナちゃん、必死とか言ったらダメだよ。二人とも真剣なんだよ

彼女:しんちゃんは、なんでこんな人たちに感情移入しちゃってんの…?

店長:これで、四天王が出揃ったな…

彼女:え? まだ3人じゃないですか?

店長:ふふ…。何を隠そう、私が四天王の最後の一人、『暴食のイサム』だ!

彼女:え、ずるい! 一人だけ異名がかっこいいやつじゃん!

アツシ:まあ、そう言ってくれるなよ。店長の異名には、理由があるのさ

彼女:理由…?

店長:これは自慢じゃないが、よく間違えて肉を大量発注しちゃうから、返品できない時は全部自分で食べてるのさ

彼女:ホントに自慢じゃねぇな。かっこつけて言うな

しん:マナちゃん、飲食店の経営ってホントに大変なんだよ

彼女:しんちゃんは、誰にでも優しいんだね。そういうトコ、いいと思う

店長:実は、俺としんちゃんは、以前にも出会ったことがあるんだ

彼女:お前はしんちゃんって言うな

店長:何を隠そう、君が『焼肉王』となった小学校のバーベキュー大会。肉を間違えて大量に納品したのは、この俺だ!

彼女:かっこつけて言うな!

しん:そうだったんですね。あの時、学校の先生たちの前で土下座してたおじさんが、あなただったんですね

彼女:店長、土下座してたんですね!? 『暴食のイサム』とかカッコつけて言ってる場合じゃないですよね!?

店長:いやぁ、あの時はホントに助かった! そこで、 だ。ぜひ、『焼肉王』である君に、焼肉四天王に入ってもらいたい!

アツシ:えーーーー !(5 秒間)

カナエ:えーーーー !(5 秒間)

ジュン:えーーーー !(5 秒間)

アツシ:店長! それだと、四天王なのに、メンバーが5人になっちゃいますよ!?

店長:無論、一人、メンバーから外れてもらう!

アツシ:えーーーー !(5 秒間)

カナエ:えーーーー !(5 秒間)

ジュン:えーーーー !(5 秒間)

カナエ:そんな! 店長… 。今までみんなでやってきたじゃないですか!?

ジュン:そうですよ! このままでいきましょうよ!

店長:我々は変わる時がきたのだ! 焼肉四天王は、よりふさわしいものが務めるべきだ!

しん:あの、店長…。せっかくですけど、僕、辞退します

店長:むぅ! どうしてだね? 『焼肉王』

彼女:焼肉王て言うな

しん:だって… 僕は、四天王として活動できる自信ないし… 。それに… 焼肉は楽しく食べるものですよ。 みんなで争うのは、やっぱり、おかしいですよ

店長:ふふふ… 。君には、また救われてしまったようだな… 。危うく大切な仲間を失うところだった。みん な、こんな俺だが、まだ、ついてきてくれるか?

アツシ:もちろんです! 店長!

カナエ:店長!

ジュン:店長!

<SE>ガラガラガラ(扉を閉める音)

彼女:なんか… 変な、お店だったね

しん:うん、あのお店の人たちはどうかしちゃってるよ

彼女:それにしても、しんちゃんが最後に言ったやつ。感動しちゃったなぁ。しんちゃんって焼肉にそんなに思い入れがあったんだね

しん:う〜ん。そうでもないよ

彼女:え? そうなの?

しん:早くあの場を抜け出したかったから、テキトーに喋っただけだよ。ホルモンで挨拶とか、焼肉の四天王とか、ちょっとあのノリにはついていけないかな

彼女:しんちゃん…

彼女M:冷静なところも、いい! 好き!<リバーブ>

しん:ねえ、どっか落ち着けるところで食べなおさない?

彼女:もう! しんちゃんったら食いしん坊なんだから!

彼女M:後日、あの焼肉屋は集団食中毒を出して営業停止となり、焼肉四天王は解散したそうです

<SE>チャンチャン