登場人物
- バタコ(女):19歳。浪人生。本名、田端小夏
- 安藤(男):20代男性
- 一色(男):20代男性
- 塩むすび:本名、都梅。男子大学生。
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約11分00秒(3243文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
バタN: 志望した大学にあっさりとオチた私は、近所のコンビニでアルバイトをすることになった。 ぼっちだった高校生時代には早々に見切りをつけ、大学で青春を謳歌しようと思ってたのにこの有様だ。出鼻をくじかれた感はあるものの、まあ、一年間の浪人生活を精一杯楽しんでやろう。そして、イケメンの彼氏をつくるのだ。そんなこんなで夢を膨らまし、私のコンビニ生活の幕が上がったのだった。バイトの面接では、コンビニオーナーの JAM(ジャム)と名乗るアメリカ人っぽいオヤジがやってきた。面接らしいことは何もせず、シフトに入れる曜日・時間帯を聞かれただけだった。どうやらこの店は、JAM と三人のアルバイ トだけで回していて、猫の手も借りたいような状態らしい。ちなみに、そのバイトの三人は私が落ちた大学の学生だとのこと。イケメ ンだったら、ぜひとも彼氏にしたいもんだ。
月曜日。今日がコンビニバイ トの初出勤になる。そうして、出会った一人目は「安藤」と名乗る色黒のスポーツマン風の男だった。イケメン…… というには少し難があるが、爽やかな雰囲気だし、悪い人ではなさそうだ。と思っていたら、万引きをした少年を見つけるやいなや、右ストレートをぶちかまし、店から追い出した。しかも、パンチする瞬間、「安藤パンチ!」と叫びながら… 。悪い人というか、やばい人だった。 知らずに付き合ったりなんかしていたらと想像したら鳥肌が立つ。とんだDV 野郎だ。
火曜日。 コンビニバイト二日目。出会った二人目のバイト仲間は「一色」(いっしょく)という、背が高くて色白のイケメンだった。 キタ! イケメン! イケメンキタァ!
バタ:あの、彼女とか、いますか?
一色:うん。三、四人いるかな? 君はどう?
バタN: 一瞬、会話の意味がわからず、衝撃的過ぎてちょっと声が出せなくなったけど、辛うじて「結構です」が出せた。こいつもダメだ。クズ男だ。彼女が複数人いる時点で問題外だけど、彼女が何人いるかも把握してない。とんだ浮気野郎だ。
水曜日。コンビニバイト三日目。 そいつは、カレーの匂いと共にやってきた。外見からして確実に日本人ではない。バイトしてるから、日本語は話せるんだよね? 大丈夫だよね?… こ、こんにちは。声をかけると、早口で何かの外国語でまくし立てられ、パニックになった。え、ああ、あ、そ、ソーリー。ソーリー。 しかし、客が来ると、一転して、流暢に日本語で話し出す。え、なんで? 常連の客と親しげ に話す彼が、一瞬、こちらを見てニヤリと笑う。この野郎! 私をからかいやがった! 後で聞いたところによると彼の名前はムハンマド。両親はインド人らしいが、日本生まれの日本育ちで外国語は一切話せないらしい。性格悪すぎ!
木曜日。コンビニバイト四日目。早くもバイト仲間から彼氏をつくるのは断念した。ここのバイトはやばい奴しかいない。DV 野郎に浮気野郎にモラハラ野郎だ。こうなったら客から見つけるか。血眼になって来る客来る客を凝視していたら、一色から、注意された。
一色:ちょ、ちょっとバタコちゃん。お客さんにメンチ切るのはまずいよ
バタN: 早速、あだ名で呼んでくるあたり、さすがは女たらしだ。シカトして客を観察しているうちに、気になる男が一人いた。何やらコソコソこちらをうかがって いるようだ。ふむふむ、顔は… 悪くないな。塩顔系で私好みではある
バタ:ねえ、一色さん。あのお客さんはよく来るの?
一色:ん?いや、あんまり見ない顔だね
バタ:ふーん、そっかぁ
バタN: 私は彼に<塩むすび>と心の中で名づけ、マークすることにした。
金曜日。 <塩むすび>は今日もやってきた。安藤に聞いてみると、彼は、私のバイト初日も来ていたらしい。 あい つ、田端(たばた)のことをジロジロ見てて怪しいから、パンチしてこようか、と安藤がなぜか臨戦体制なので宥めておいた。
土曜日。<塩むすび>がまたも現れた。アイツ、小夏(こなつ)の事ずっと見てるな、とムハンマドにも言われた。さすがに少し気味が悪くなってきたので、レジの対応をムハンマドに任せて、店の裏で休憩することにした。 冷静になって考えてみると、<塩むすび>の顔は、どこかで見たことがある気がする。あ! もしかして… 。思いついて、急いで店内に戻ったが、<塩むすび>はすでにいなくなっていた。
日曜日。今日はバイトは休みだが、<塩むすび>に会うために店内のバックルームで待機する。すると、しば らくし て安藤が呼びに来てくれた。やっぱり、今日も来たか。いざとなったらすぐ呼んでくれ、と安藤が鼻息を荒くし ていたので、大丈夫、 危険な相手じゃないからと宥める。店内でウロウロしている<塩むすび>に話しかける。
バタ:私に何の用? 都梅(つば い)くん
塩: あ、… ああ、覚えててくれ たんだ?
バタM: 辛うじてね
バタ:で、なに?
塩: あの、田端さんに、一言、お礼が言いたくてさ
バタM: ほわっつ? 私、何かしたっけ?
塩: 僕がクラスでいじめに遭ってた時、田端さんだけが味方でいてくれたから
バタM: え? そうなの?
塩: そりゃまあ、田端さんが何かしてくれたわけではないんだけど、僕はそれだけでも嬉しかったんだ
バタM: へぇ〜
塩: 僕のせいで、田端さんもボッチになっちゃってたし
バタM: え? そうなの? 私がボッチだったのってこいつのせいだったの?
塩: あの時は、どうもありが<カットイン>
バタ:ところで、君、どこの大学行ってんの?
塩: え? いや、S大だけど
バタ:え、まじで? 私もS大目指してんだよね! へ〜そっかそっかぁ〜
塩: うん。… それでさ、あの時は<カットイン>
バタ:彼女とかいんの?
塩: …いや、いないけど
バタ:おーしゃ ! じゃ、付き合ってよ!
塩: え? 付き合うってその…
バタ:何? 嫌なの? 私に恩があるんだよね? 断る奴いねーよな?
塩: ああ… はい。付き合います
バタ: やったぜ! 彼氏ゲットォ ! ちょろいぜ!
一色:バタ コちゃん、そのやり方はエグいよ。ほとんど山賊だよ
SE<殴る音>
バタN:一色が何か言って来たのでグーパンで成敗してやった。
バタ:おいおい、彼氏持ちを気安くちゃん付けで呼んでんじゃねーよ! バタコさんか、小夏さんと呼びな!
一色:ぐぅぅう。ガチでいてぇ…。君ぃ! 都梅くん、だっけ? 君はこれでいいのか!?
塩: はい。実は僕、高校の時から田端さんのことが…
バタ:おいおい、参ったね、こりゃ。そうだったのぉ? 照れるわ〜
安藤:ぐぅ、ぐぉおおおおおーん!
バタN:レジの方から安藤の叫び声が聞こえた。どうした安藤。なぜだ安藤。
一色:ああ、安藤はね。バタコちゃ……。こほん、小夏さんが好きだったのさ
バタM:え? そうなん? モテ期きとるやん? やば!
バタN:安藤はコンビニの制服のまま店の外へ走り出した。あ〜あ。これから忙しい 時間帯なのに、バイト足りんやん。あ、そうだ!
バタ:都梅くん、ここでバイト始めれば?
塩: え? いや、そんないきなり…
バタ:大丈夫。私からオーナーのJAM に言っとくから
バタN:こうして、私に彼氏ができ、ついでにバイト先のメンバーが一人増えた。都梅君とは、勉強を教えてもらったり、近場のショッピングモールでデートしたり、健全な交際が続いている。お楽しみはまだまだこれからである。ちなみに安藤はあの日、突然飛び出してから、翌日には素知らぬ顔で帰ってきた。ちょっとパトロールに行ってきただけだと、訳のわからない言い訳をした安藤。彼の目は、真っ赤に充血し、顔はパンパンに膨れていた。