登場人物
- 田中(女):女子高生
- 白石(男):男子高生
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約6分0秒(1811文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
田中N:深夜2時過ぎ、吉野からのLINEに気づいたのは、 炭酸入りの清涼飲料水を買ってコンビニを出たところだった。
田中:「ごめん! 今日行けなくなっちゃった!」
田中N: 簡潔な文章の裏に、彼女なりの思惑が滲んで見える気がした。これは、もしかするとそういうことなのだろうか。少し苦笑いを浮かべながら、返信しようとした矢先に、田辺君からもメッセージがくる。
田中:「俺もムリ! 急でごめん!」
田中N:これで確信が持てた。どうやら彼女たちは私に気を遣っているようだ。なぜなら、四人中二人が欠席となると、二人きりにならざるを得ないからだ。白石君と私の、二人きりに。……急に緊張してきた。早る気持ちを抑え、とにかく、学校へ足を向ける。私が白石君のことを好きなのは、望む、望まざるに関わらず 周知の事実らしい。不思議なもので、私自身、そんなことを喋った覚えはないんだけど、顔の表情と態度でバレてしまうようだ。自分の表情筋の安直さが恨めしい。そして、そんな状況に関わらず 白石君が私の気持ちに気づくことはない。こちらが告白したわけでもないのだから、残念に思っているということはないんだけど、私に興味がないのかな、と思うと少しだけ胸が苦しくなる。
そんなこんなを思いながら歩いてるうちに学校に着いて、屋上に向かう。
白石君のことだから、早めに準備を終えて天体観測を始めているはずだ。これまで、遥か遠くの惑星を望遠鏡で覗く彼の視界に 私が入ることはない、そんな風に思ってきたけど、今夜はチャンスなのかもしれない。 深夜2時30分、屋上は彼と私だけの空間になる。 屋上につながる階段を昇っていくその先に、白石君がいる。もうすぐ……、もうすぐ彼のいる所に辿り着く。 自分の心臓が強く脈打っているのがわかる。 階段を一段、一段上がるごとに脈拍が加速していく。 もうすぐだ。 屋上扉のドアノブを捻り、金属の軋む音を立てながらドアを開くと 天体望遠鏡を覗き込む青年の後ろ姿が見えた。 集中している彼に声をかけるのは躊躇(ためら)われたので 真横に回り込んで、話しかけるタイミングを伺うことにした。 間近で見る彼の横顔は、鼻梁(びりょう)が高く、睫毛がすらっと 伸びていて……、それはまるで芸術品のようで、何時間でも見ていられる気がした。
白石:わっ! 田中さん、来てたの!? ごめんね! 気がつかなくて
田中N:白石君の目が望遠鏡から離れて、真横にいた私を捉えた。 嬉しいような、少しだけ怖いような。心臓が跳びはねそうになるのを堪(こら)えて、 なんとか目と目を合わせてみる。
田中:だ、大丈夫。今、来たところだから
白石:あー、いつの間にかこんな時間かー。 あれ? 吉野さんと田辺は?
田中:少し前に連絡があって、二人とも今日は来れないみたい
白石:え、そうなの? あ、ほんとだ。 グループLINEに連絡きてた。吉野さんはともかく、田辺のやつ……。またサボりやがって
田中:仕方ないよ。田辺君、サッカー部と兼部してるから 疲れてると思うし。それに、私は白石君と二人でも、その……嬉しい……っていうか、その
白石:え……? あ、えっと
田中:え、えっと……。今! 今何の星観てたの!?
白石:あ! ああ、夏の大三角からポラリスを探してたんだよ
田中:へ、へー。どうやるの?
白石:うん。夏の大三角はわかるよね?うん、そう、それ。で、ベガとデネブを結んだ線で アルタイルを折り返した辺りがポラリスなんだ。……ほら、見える?
田中:あ、わかったかも。そこ?
白石:そうそう。田中さん、どんどん星に詳しくなっていくね
田中:……私、星の中ではポラリスが一番好き
白石:へぇ、それはどうして?
田中:かわいい名前だし、星言葉も好きだし、 好きな曲の名前だし、 それに……、初めて教わった星だから(小声で)白石君に
白石:そっか、俺もポラリス好きだよ。 見つけやすいし
田中:……私のことは?
白石:え……?
田中:あの、ちょっと話してもいいかな?
白石:うん……。どうぞ
田中:あのね……
曇りのない星空の下、 夜の静寂に包まれたままで、 物語は閉じられてゆく。 始まりから終わりまで、その物語は二人だけのためにある。