登場人物
- 父(男):40代
- 母(女):40代
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約5分0秒(1455文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
父「少し、気が早いんじゃないか?」
母「大丈夫、大丈夫。これ、すごいロウソクなの」
父「すごいロウソクって、なに?」
母「なんかね~、 えっと~」
父「うん」
母「長持ちで~」
父「うん」
母「ロウが垂れなくて~」
父「うん」
母「おいしいの」
父「嘘でしょ」
母「嘘なんかつかないよ~ イチゴ味なんだって」
父「へー、 最近のロウソクはすごいね」
母「じゃあ、 火、 つけま~す」
父「ほんとにつけるんだ……。まだ早いと思うけどな」
母「電気消して~」
<SE>電灯スイッチ切る音
父「まだ早いと思うけどなー あの子が帰ってくるの、 あと1時間くらいかかる気がする」
母「大丈夫だってば~。なんか、今日は去年よりも早く帰る気がするんだ」
父「そっか……。ロウソクの火を見ると、やっぱり思い出しちゃうなー……。 あの子はケーキのロウソクが好きだった」
母「ロウソクの火を消すのは嫌いだったけどね」
父「ああ、そうだった。 きれいだから、消したくないって言ってな。いつまでも火を消さないから、ケーキの上にロウがボトボト落ちちゃってな」
母「うん。それであなたが我慢できずに息を吹き消したら、大泣きしてね」
父「ああ。『パパのばかぁ~』って言って、二階に逃げちゃってな」
母「うん。 あなた、せっかちだから、 あの子とよくケンカしてたね」
父「そうだなぁ。……今だったら、もっと優しくできるのになぁ
母「あ、 今、火が揺れたんじゃない?」
父「ほんとか? ああ、 見逃しちゃったな」
母「きっと、 もう怒ってないよ、 って、あの子が言ってるのよ」
父「そうかなぁ。……そうだといいけどなぁ」
母「あの子も、もう17歳なんだから、きっともう大丈夫よ」
父「いや、 わからんぞ。 17歳なんて反抗期真っ盛りじゃないか?」
母「うーん。 あの子、割とおっとりしてたから そんなことないんじゃない?」
父「そうかなぁー。 ロウソクの火を消したくらいでいじけるやつだぞ?」
母「そんな風に言わないの。きっとあの子、恥ずかしかったのよ。それで、過剰に反応しちゃったんじゃない?」
父「恥ずかしい? なんで?」
母「だって あなたは あの子の初恋の人だし」
父「えぇ? 父親だぞ」
母「ふふふ、火がすごく揺れてる……。女の子って、 そういう子多いよ? まあ、小学校の1年生くらいまでだけど」
父「そうだったのか……。いやぁ、 嬉しいような、むず痒いような、変な感じだな」
母「ふふふふふふ……、くっくっく……まだ火が揺れてる」
父「お前が真菜をからかうからだろう。 かわいそうに」
母「ごめんごめん。 はーーーー。 あの子が、まだ、ウチにいたら、 毎日、こんな感じなのかな」
父「どうだろうな。一年に一回だから、こんな風にできるのかもしれないけどな」
母「もー。やだねー。妙に達観しちゃって。真菜もそう思うでしょ?」
<SE>ピンポーン
父「誰かな。こんな時間に」
母「真菜が帰ってきたんじゃない?」
父「おい」
母「大丈夫よ。もう、5年も経ってるんだもん。 私だってわかってる。でも、ちょっとだけ期待しちゃってもいいでしょ?」
父「そうやって期待すると、後で辛いぞ」
母「……うん。……でも、その時は、あなたが慰めてくれるんでしょ?」
<SE>駆け足
父「そうだな……。俺たちはそうやって生きていくしかないのかもな」
母はーい
<SE>ドアを開ける音