No Heaven,No Rest

登場人物

  • 女性の元兵士。ホークアイと呼ばれていたが、瀕死の重傷を負ったが、ある出来事で、復活する。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約10分(約2300文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

変な方向に曲がった腕を抱えた男が座り込んだ。
私はソレに唾を吐きかけて、歩きだす。

あぁーあ、余計なこと言うんじゃなかった!

この容姿……
変な奴が寄ってきてウザイにもほどがある。
どう考えても、前の方が楽だった。

腕をへし折ってやったくらいで泣きだしやがって。
はぁ…
ホークアイって、呼ばれた頃は
アンガス以外、誰も近寄ってこなかったってのにな

昔々、ある戦場でのこと。

アンガスは、同僚でありパートナーだった。
……恋人を名乗っていいのか?
こんな私が…と思わなくもないけど
そんなこと
今さら、どうでもいい…
ある戦いのなか、彼は重症を負ったが
体の損傷がひどすぎて、サイボーグにもなれず
【動き続ける】ためにマインドトランスファーとかいう技術を使うことになった。
それしか道はなかった。
よくわからないけど
脳の情報を機械に移し替えるとかなんとか言ってたな

彼は笑う
『成功させて、一緒に暮らそう』と。

……けれど
結果だけ言うと失敗した。
エンジニアのミスなのか
<アンガスのミス>なのかは分からない。
そして
アンガスの精神だったものは
混乱した存在として廃棄された。
私は泣くでもなく怒るでもなく絶望した。
ヤケになって、戦場で敵を殺しまくっていた。
──でも結局、それに何の意味があったんだろう
その後
何の因果か、アンガスのように私も重症を負った。
気がついたときは、狭い治療ポッドの中で、
アンガスのときにいた奴らが見えた。
治療ポッドの中の私に問いかけてくる。

『お前は、
マインドトランスファーを受けるか?もしくはそのまま死ぬか?』

勝手に機械にでもなんでもすればいい
そう思った。
だって
こっちは抵抗したくても動けない
選択肢なんてあってないようなものだ。
まるで笑えないジョークでも言われたような気分で
動けないと理解しながらも、ポッドのガラスを叩いてやりたかった。

インフォームド・コンセント。

本人の同意が無いと、ほぼ確実に失敗するらしい。
人格がまとまりを失い
『アンガスのような、使い物にならない存在』
というものになる危険性が跳ね上がるんだとか。
本人の了承があってもトランスファーの過程は
『心が壊れる』危険を伴う研究途中の技術だと、この時
私ははじめて知った。

おいおい、アンガスさんよ……
自分が、そんなにヤバいもんのモルモットになってるって知ってたの? 

なに?
……私のために、とか……?

ぁあ、きっと笑いながら
悪いか?って、照れた顔をするんだろうな
アイツなら。

想像してしまったら泣けてきた。
涙なんてあの日枯れたはずだったのに。

……なんだろぅか
同時に意識が朦朧としてきた。

跳ねっかえりの私は
何度も、アンガスにつっかかった。
だけど、何もかもアンガスに負けたんだ。
力でも技でも、人間性でも。
やだな
『人間性』とか、私が頭良さげな言葉使ってるの、なんか滑稽だ。
でも
こんな私をアンガスは、選んでくれたんだ。
アレができないときだって
アンガスは無理強いしなかった。
父親がやったみたいに、力で思い通りにするのなんて、簡単だったはずなのに。
それをしないでくれた。
弱いままの私を、そのまま大事にしてくれた。
……なんだそれ?  何の価値があった?

アンガスに出会う前だった
私は、ある日、父親を止めた。

なんだ、止められるんじゃん!
そう思って。
でも、動かなくなったら『無』だとも思った。
それ以来、私は動き続けた。
邪魔する者は止める。
それが『犯罪』にならない世界
「戦場」で「兵士」として私は生きることにした。
そこでアンガスに出会った。
一緒にいると、天国みたいだった。
天国なんて信じてなかったけど
毎日
殺し殺される戦場は私にはそう感じさせたんだ。

でも?
ぃや、だからだ
もし、天国があって
……神ってものがいるんだったら
もうちょっとは、まともな世界を造れよ!
まともな運命をよこせよ!!
兵士の私が言うと、死の天使かって話なんだけど。
それでもそんな風に思っちゃったんだ。

悪いけど、どうしても『あんたの存在』が
信じきれない……

……私は、我に返る。
そうだ、私は、死にかけてて、究極の選択を迫られてたんだった。
人間からサイボーグですらない機械に……
……アンガスのあれは、なんだったんだろう。
それに
うっすら覚えてる孤児院のお姉さん
あのあたたかさって、何だったんだろう。

……ごめん。アンガス。

私、もうちょっと、人間を見てみたい。
ちゃんと分かりたくなっちゃった。

まだ、止まれない。
止まりたくない。

うまくいったとしても
私はこれから、どんな存在になるのか
正直よく分からないんだけれど……

ねえ?
そこの神様きどりのいけ好かないエンジニアたち?

大サービスして
ヤバいモルモットになってやるんだからさ。

せめて、とびっきりの美少女にしなさいね?
そのくらいオマケできるんでしょうね?!

ぁーあ
余計なひと言やめろって
アンガスにも言われてたのにな。

結局いまも答えは見つからず
わからないまま私は動いてる。

さぁ、次はどこのバカの骨折ればいいんだろ……

Spetial Thanks!  人外薙魔様