登場人物
- 如水(男性):黒田如水。戦国時代の武将。
- 善助(男性):栗山善助。黒田如水の老臣。
- 語り(男女どちでも可)
所要時間(300文字あたり1分として計算)
約6分(約1700文字)
台本についての補足説明(ディレクション等)
特にありません。自由に演じてください。
本文
善助:殿……よろしいですか?
如水:(善助をぎょろりと見て)……もう、わしは殿では……ない…… ただの隠居した老いぼれじゃ
善助:……恐れながら、最近の殿は、お人が変わられたように、突然、癇癪を起こされるようになり、皆が恐れております。
如水:……殿ではないと申しておるに……およそ生きている限り気がかりが無くなることはない……
善助:殿は、様々なことが見え過ぎますゆえ……
如水:……
善助:……殿には何が見えているのでございましょうか。それがしには、如水様が、理由なく人を怒鳴るようになるとは思えませぬ。
如水:……女が見える……
善助:……女?
如水:……有岡城から、ずっと……
善助:……有岡……荒木村重殿の、あの有岡城でございましょうか?
如水:……ああ……村重が信長公に背いたときに、わしは、村重を説得に行った。しかし、きゃつは、わしを捕らえて土牢に押し込めよった。
暗く、地虫が這う土牢の中で、わしは、もだえ苦しんだ。
そんな時に、かの女は、現れたのだ(指さす)。
善助:(如水が指さした方には誰もいなくて、戸惑う)……
如水:……どんな代償も払うから、命を助けてほしいと祈ったら、かの美しい女が現れた。女は、「私は人の業を見るのが好きだ。だから、助けてやる」と申したのだ。女は消えた。いっこうに現れぬ……わしは長い幽閉生活で、片目を失い、片足が不自由になった。そうして、ようやく救い出された……
善助:……いったい、その女は……
如水:……有岡の土牢の隙間から、花が見えてな……
女は「藤」と名乗った。
善助:……
如水:……それから、折りに触れて現れるようになった。手助けしようかというが、もうこのような妖しいものに、騙されてはならぬと思い、断っていた。
しかし……高松城で……
善助:…… 高松城?……あの水攻めは……あの無慈悲な水攻めは……
如水:およそ水攻めほど残酷な策はない……
泥水を溢れさせられては兵も民も生きてゆけぬ
数千の民に恨まれることも重々承知の上で、わしが考え、秀吉公に、進言した
善助:……されど、その女は、なぜ?
如水:……湯水のように銭をばらまき、人夫を集めたというに、増水した川は、土嚢を押し流してしまう。どうしても、堰き止められなんだ。
その時、また、あの女が現れたのじゃ
「お望みならお助けしましょう」とな……
善助:……
如水:……毛利の援軍の恐れもあり、これ以上、戦を長引かせられなかった。大変な手間をかけた策じゃ「できませんでした」では済まぬ。
それで、わしは、恐怖に怯えながら方策を聞いた。
善助:……船に土嚢を積んでは壊すという策は……
如水:……女がわしに与えた策じゃ。備中高松城水攻めは、お陰で成就した。戦もわしの面目も、うまくいった。その後、何の障りもなかったゆえに、安心しておったが……
善助:……まさか……
如水:……16歳の若さで熊之助が乗った船が、嵐に遭い沈むとは、思いもせなんだ。恐ろしい宿業を感じた。
世は変転の末、徳川の世になった。
わしは戦上手なために疑われ続けた。
反乱を起こせばやっかいな者としてな。
もう、わしもこの歳じゃ。
気がかりなのは、黒田家の今後のこと……
善助:……まさか、その女に
如水:……黒田家が安泰になるには、どうしたらと問うた……そうしたら……
善助:……そうしたら?
語り:
黒田如水。
戦国時代の武将である。数百の兵で、数千の軍勢を退けたり、備中高松城を水攻めにするなど卓越した作戦能力で、豊臣秀吉の天下統一に貢献した。
一度、手痛い失敗をしたことがある。信長に反乱を起こした荒木村重を説得に行った際に、逆に土牢に幽閉されてしまい命の危機に瀕した。その際に、土牢の空気抜きの穴から見えた藤の花を見て、気力を保っていたという。
その後、世の中は変転して、豊臣から徳川の時代になったあと、穏やかな人柄が変わり、かっとなって、周りの者に対して怒鳴りつけたりするようになったという。
耄碌したふりをして、反乱を起こすだけの頭脳を失ったことを徳川家に示し、息子を中心に家臣が結束するように仕向けたのではないか、という説がある。
