完璧な計画

登場人物

  • 私・語り兼ね役(男性):変わり者の息子。好奇心から犯罪に手を染めそうになる。
    しかし、母の奇策で、犯罪には手を染めずに済み、大人なってから、語り手として、子ども時代を振り返っている。
  • 母(女性):息子の母親。息子同様に、相当な変わり者の母。
    自分も変わった子どもだった過去の経験から、息子を丹念に洞察しながら、育てていた。
    息子の犯罪願望を聞いて「完璧な計画書」を出すよう要求する。

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約13分(約4200字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

自由に演じていただいて構いませんが、

この親子のやりとりは、母が、30歳前半から半ば、息子が14〜16歳頃という設定で書いております。

母親は若くして出産したのですが、作中の事情で実家からの支援はなく、シングルで子どもを育てたという背景がある設定です。

本文

語り:
シャーロック・ホームズねえ。

そんな大したことではないんですよ。
確かに私も
シャーロック・ホームズが捜査に熱中するように
子どもの頃から、とても凝り性で、夢中になると止まらない性格ではありましたけど……
どっちかっていうと、私はホームズの逆でした。

子どもの頃から【友達付き合いもろくにしない上に】怪しい情報を読んでは、いろいろ、よくない行為を妄想して書き留めていました。
まあ、そこまではよかったのですが。
ただ、なんとなく「人を殺してみたい」って書いたものを偶然、母に見つかってしまうなんて思わなかったんです。

母:
「ごめんね。机の上にあったから、たまたま目に入って、読んじゃったの。それは謝るのだけれど。
あなた、人を殺してみたいの?」

語り:
っと言われたとき、気が動転したなんて言葉では表現しきれないくらい驚いて「どうしよう」の文字で頭の中がいっぱいになりました。
でも、困ったことに、それが自分にとって「嘘偽りのない気持ち」で
でも、〈とても異常なこと〉だという認識がしっかりあったんですよ。

息子:
「い、いや、それは空想の話というかモウソウノハナシトイウカ…」

母:
「……気持ちは、少しだけわかるわ……」

語り:
なんとか誤魔化そうとしてカタコト口調になった私に母がそう言うものだから、思考が混乱を超えて止まってしまいました。

母:
「さすがに『人を殺したい』と思ったことは、おかあさんには無かったけれど、私も相当変わった子どもだったから……」

語り:
確かに、母は相当、変わった人でした。
物凄く直感の鋭い所があったり、逆に、鈍感過ぎるところがあったり、好き嫌いも激しくて、野菜は絶対食べなかった。
いろいろ人として見習ってはいけないような所が多い人間でした。
まぁそれはともかく、私が答えに困っていると、母が言いました。

母:
「では、やってごらんなさい!」

語り:
私は、「何を言ってるんだ?この人は……」と、口をあんぐり開けてしまいました。

母:
「けど、ひとつ聞くわね。警察に捕まりたい?」

語り:
私は、目玉だけを時計回りにぐるりと回して、首を横に振りました。
なんだやっぱり変わっていても、ちゃんと普通の大人で、母親なんだな、やれやれと口を閉じようとした時です。

母:
「私も、家族が警察に捕まったら、仕事もやめなきゃいけないだろうし、生活できなくなるから、困るの。
完璧な計画を作って、私に持ってきなさい。
私が完璧だと思うような計画だったら――好きにやりなさい」

語り:
母の目は、おもちゃを与えられた子ども、というより、子猫のように見え、さっき閉じ損ねた口をやっとで閉じ……〈なんておもしろそうなんだ〉と思ってしまいました。
その日から、学校の勉強なんかそっちのけで、犯罪の計画を立てるようになって、でも子どもの立てる計画ですから、最初はアラばかりの計画でしたね。

母:
「これじゃあ、目撃者が出るわね。捕まってしまうわ。ダメ」

語り:
試行錯誤して、いろいろ工夫してみても

母:
「監視カメラを壊す?
ダメダメ、監視カメラってクラウドという別の場所に録画のデータが転送されるタイプがあって、壊しても画像のデータが残ることがあるの、捕まってしまうわ。ダメ」

※台詞番号付け忘れててごめん!

どう計画を立てても、母は、それを覆してくる。

母:
「ダメダメ。血液じゃなくても、汗や唾が少しでも残ったら、血液型もわかるし、重大な手がかり。
唾液とかに、口の粘膜の細胞が出ていることがあって、DNA鑑定で重要な証拠になる。捕まってしまうわ。ダメ」
でも、ダメと言われたら、余計燃えるタチの私は頑張り続けました。

母:
「無理無理。人の死体を、そんな短時間で、そんな長い距離運ぶのは、絶対に無理。
計算してごらんなさい。1ガロンの牛乳ボトルって、持ったことあるでしょ?
あれで約9ポンド(約4kg)よ? それの約20倍の重さよ?
勉強不足。捕まってしまうわ。ダメ」

母:
「そんなふうに毒を長期間管理するつもりなの??
手に入れてすぐ使ったら怪しまれるから、保管したいんでしょうけど、
化学物質って、空気と反応して変質してしまうものが多いの。
毒だって同じ。
それを、長期間、密封が甘い状態で置いておいたら、効果が無くなってしまうわ……
まったく勉強不足。ダメ」

語り:
私は、学校の勉強は、ちっともしないくせに、計画に関わるものは夢中で勉強しました。
時間や距離、スピードの計算、重さや面積、化学物質の濃度や管理方法のことを……
そして
ものの体積、形、力学の計算、人体の仕組み、構造、人間の性格や心理……みたいにね。

母:
「ダメダメ。ここの場所は、この時間帯は、人通りが多いから、目撃者も多くなるはず。」

語り:
人々の生活、行動のパターン、社会の構造、ありとあらゆることを、自分では考え尽くして、
自分では絶対に大丈夫だと思う計画書なのですが、母もまた絶対に、その計画の穴を見つけてくる。

母:
「凄く良くできてるけれど、この季節は、急に雨が降る可能性があるから、このトリックは無理になるかも。
無理になったときの代わりの案はある?ないなら捕まってしまうわ。ダメ」

語り:
地形、天候も細かく考え……
何回、計画書を出したのか。
100回くらいまでは数えてましたが、その後は数えるのをやめました。
とうとう、私は、母にこう言わざるを得ませんでした。

息子:
「もう無理……犯罪って、無理!……というか、母さん、凄すぎるよ!」

語り:
母は、ゆっくりと表情を崩して笑い、答えました。

母:
「……あなたを育てているとき、この子は変わってるというか、自分と似ているなあって感じたのよ。
こだわりが強くて、言ったことを曲げないし、本当に自分が実感したことしか、やらない。
だから、無理やりコントロールしようと思っても無駄だと思って、ゆるく見てた……」

語り:
母親というものは、なかなかそんな風な考え方にはなれないもの。
自分の子どもと、意識的に境界線を作る。
そんなことは、普通の母親には難しい。
子育てしたことのない、私にだって、それくらいはわかります。
でも、私の母は、そうしていたらしい。
彼女自身が変わっていると自認していたように、普通の母親じゃないから、できたのかもしれません。
そして……

母:
「『人を殺してみたい』というあなたが書いたものを読んだとき、『ついに来たか』って、思った。
私も子どものとき、好奇心から人に大怪我をさせた。
当然、血が流れた。
その人の顔は、苦しそうで、とてもかわいそうだと思った。
普通に、心が痛んだ。私は、頭が悪いから、やってみないとわからなかったけれど。
まあ、刑務所や少年院に行く年齢ではなかったんだけど、大人にいろいろ怒られて【引っ越し】と【転校】しなくちゃいけなかったし、
それがもとで、両親、あなたにとっての、おじいちゃんおばあちゃんは離婚したの。
『人に危害を加える』っていうことが、どういうことなのか。体験しないとわからないなんて遅かったけど、私は理解した。
幸い、相手は命に別状もなかったし、後遺症も残らないケガですんだ。でも、わけもわからず人が危害を加えてきたわけでしょう?
相手は、どれだけの恐怖と苦痛だっただろうって、今でも、ときどき考えちゃうのよ

なかには、人が殺傷されても、全然、心が動かないとか、喜んじゃう奴もいるみたいだけど、幸いなことに、私は、そういうタイプではなかった」

母:
「犯罪なんて、うまくいくこともあるかもしれないけれど、失敗のリスクも、代償もあまりに高すぎる!
なにより悲し過ぎるし、全然、割に合わない!
そう、心の底から思ってる……」

語り:
母から聞くことは、私の知らないことばかりでした。
でも、計画書のやり取りを数えるのをやめるぐらいするなかで、幼稚な私の心身も少しずつは成長していたから、体験しなくとも言ってることが、十分理解できたんです。

母:
「どんな説明をしてもたぶん、あなたはわからないと思ったのよ。
こだわりが強いから、単純な説教も無意味で、
きっと反発して隠れて実行する。小さい頃の私がやったみたいにね。
だからちゃんと話を聞くとこからスタートしたの……そして正面から戦おうと思った。
それで〈計画書を……〉なんてことを言ったの。
まあ、息子と犯罪ゲームで頭脳戦なんて最初はちょっとドキドキハラハラもしたわね。
それにあなたは、私の想像よりも、何倍も粘った。
思ったよりもずっと長期戦になってきて、あなたの計画のレベルも、どんどん上がってきたから、正直、とてもきつかったのよ?」

語り:
と母が可愛らしい笑顔で言うので
そんな内面を見せないで、楽しそうに計画書を突っ返し続けてきた母親の演技力に少しの恐怖と大きな尊敬で顔を歪めました。

息子: 「……もし、母さんが欠点を見つけられないような計画書をぼくが、持ってきたら……」

母: 「それは、もう賭けだわね。
だから、もう、犯罪の歴史の勉強から始めて、犯罪捜査や犯罪セキュリティーに関する資料なんかは、ずっと最新のを調べまくって読みまくったわ。
おかあさんだって本当に頑張ったのよ?
シングルで仕事しながらだったからキツイなんてものじゃなかったわぁ
何もかも壊れるかもと思うくらい追い詰められたときもあったし。
でもね、あなたが、私を救ってくれてもいたの」

息子: 「ぼくが?」

母: 「そうよ」

語り: と、母はまた可愛らしく微笑んだんです。

母: 「……やり取りをしている中で、あなたが、人を殺傷しても、何も感じない、あるいは、喜んでしまうタイプではないと、わかってきたから。
それに……学校の勉強を、まったくやらなかったあなたが、人と関わろうとしなかったあなたが……
計画書のためとはいえ
緻密な数学ができるようになったり、変則的な形ではあるけれど、人間関係や社会との関係に興味を持って、
それを少しずつ理解していくのを見ているのは、母親として、凄く嬉しかった。
自分がやっていることが無駄ではない。そう思えることが、どれだけ力になることか。
際どい形ではあるけれど、『この子は、物凄く成長していってる!』って思ったの」

語り:
私は、それを聞いて、ため息が出ました。
「こんなことが……」と。
それは、母親が、という意味でもあったし、
「人間に、こんなことができるんだ……」っていう気持ちでもありました。

もちろん
数えきれないくらいの幸運のお陰で、私は犯罪に手を染めずに済んだことも理解しています。

【そして、こうやって、紆余曲折はありましたが、健全と言える範囲で生活できていることも。】

法廷で傍聴をしているとき、この人と同じ環境や状況にあったら、自分は犯罪を犯さないでいられただろうか。
何かが違っていたら、私の方が、あの被告席に立っていたのではないか。
そう感じることは、本当に多い。
まあ、それはそれとして……でも、それにしても……
私だって、どれだけ、いろんなことを調べて考えて、緻密に計画を立てて挑んだかわからない。
自らの戒めにするために、計画書は全部とってあるんですけど、
本当に、最後のほうの計画書は、今、改めて読んでも、よくできている。
母じゃなくて、ほかの人だったら、私の計画を覆し続けるのは、不可能だったでしょうね。誰にも真似できるようなことではない。
私にとって……母の存在は、あまりに大きい。
……なんてことはない、ただのマザコンなんですよ。

そして、そのマザコンは今……
【FBI心理分析官】なんて仕事をやっているのです。
シャーロック・ホームズなんて凄さは私にはないんです。
あるとしたら母なんじゃないかな……なんて思いながらね。

Spetial Thanks! 人外薙魔様!