リス怖

登場人物

  • マナ(女):高校一年生
  • 先輩(男):高校二年生

所要時間(300文字あたり1分として計算)

約9分30秒(2961文字)

台本についての補足説明(ディレクション等)

特にありません。自由に演じてください。

本文

<SE>人混みのガヤ

<BGM>休日っぽい

マナ    おもしろかったぁ!

        普段はあんまり映画みないんですけど、

        きてよかったです!

        あそこ、よくなかったですか!?

        探偵がトイレでウォッシュレットの使い方間違えるところ!

先輩  あー、あそこはよかったね。

    まさか、ウォッシュレットで事件が解決するなんてね

マナ  あと、二足歩行のネズミが、パレードするところ!

    双子のリスが、ほんとに可愛くて!

先輩  あ、ああ。あのシーンもよかったね。

マナ  ん? 先輩、どうかしました?

    なんか、顔色があんまりよくないような

先輩  いやいや、大丈夫だよ!

さ! まだ時間も早いし、どっか寄っていかない?

いきたいところとか、ないかな?

マナ  んー、そうですねぇ。

    あ! あそこのペットショップ入っていいですか?

    わたしぃ、ちっちゃい動物が好きなんですよ

先輩  じゃ、じゃあ、行こうよ!

    (深呼吸)スゥーーーー、はぁああああ、、、

マナ  (引き気味)なんで、深呼吸してるんですか?

<SE>カランカラン

マナ  わぁ! すごい!

    ここのペットショップ、動物が放し飼いなんですね! 

先輩  おいおい嘘だろ…

    マナちゃん、そろそろ帰ろっか!

マナ  せ、先輩…。いくらなんでも早いですよ。まだはいったばっかり

先輩  じゃ、じゃあ、俺、ベンチに座ってるからさ。

    マナちゃん、遊んでおいでよ

マナ  え~? そっかぁ、先輩、お疲れなんですね? わかりましたぁ

先輩  ふぅううう。なんとか難を逃れたか…

マナ  <<編集:遠くから近づいてくる>>かわいいいいいぃぃぃ!!!

先輩  う、うわぁあああ!

マナ  ちょっと先輩! みて! みて!

    こんなにかわいいの!

先輩  そ、そーだねー。あは、あははは

マナ  ほらー。ちっちゃくてー。目がクリクリでー

先輩  あは、あは

マナ  え、先輩? ……どこいくの?

<SE>(店から出る)カランカラン

マナ  ちょっと先輩!

    なんで、外に出ちゃうんですか!?

先輩  ごめん…

    その、動物が苦手でさ。(平坦な早口で→)特にリスが

マナ  そうだったんですね…

    それならそうと、早く言ってくれればいいのに

先輩  うん…。なんか、ごめんね…

マナ  じゃ! お店に戻りましょう!

先輩  ん? マナちゃん?

マナ  リスが苦手なら、克服すればいいんです!

    せっかくの機会じゃないですか!

    今日で、リス嫌いから卒業しましょう!

先輩  うん?

<SE>カランカラン(入店する音)

マナ  さ、先輩、シマリスですよ?

    かぁーわいいですよー?

先輩  シマリス…、カワイイ…

マナ  ほらほらぁ、お目がまん丸でぇ、

    おなかがモッフモフですよー?

先輩  オメメガマンマル…、モッフモフ…

マナ  さあ、どうぞ! 頭をなでなでしてあげて!

先輩  うう…、噛まない…かなぁ?

マナ  噛まないですよ!

先輩  その、爪で、引っ掻いたりは?

マナ  引っかかないです!

先輩  おしっことか

マナ  おしっこしない!

先輩  あ、ごめん。俺、トイレ行ってくるよ

マナ  (低い声で)えー? どうぞ

<SE>カランカラン

マナ  ちょっと!

先輩! なにこっそり帰ろうとしてるんですか!

先輩  いや、俺、自分ちのトイレじゃないと無理だからさ

マナ  普段どうやって生活してるんですか!

    っていうかさっき映画館のトイレ使ってましたよね!?

先輩  ごめん。ほんっとうに、無理なんだ。今日はもう帰ろ? ね?

マナ  …リス触らないと別れる

先輩  え?

マナ  リス触らないと別れるって言ったんです

先輩  えー…、そんなことある?

マナ  そんなことあるんです!

    お店に戻りますよ!

<SE>カランカラン 

マナ  (ちょっと怒った感じ)ほら、シマリスちゃんですよ

<SE>シマリスの鳴き声

先輩  う…うう…

マナ  ほら、勇気を出して

先輩  うああああ…ああ…!

    嫌だ…! やっぱり無理だ!

マナ  先輩…。一体、先輩とリスの間に何があったんですか?

<BGM>回想

先輩  そう、あれは、俺がまだ幼い頃、

    庭の芝生で寝転んで遊んでいたら、一匹のリスが俺のそばに寄ってきた。

    俺がそのフワッフワのしっぽに見惚れているうちに、

    この、けむくじゃらの悪魔は…、顔の方に近づいてきて、

    俺の耳を…。俺の耳を、食いちぎったんだ…!

マナ  先輩…

先輩  ああ…

マナ  先輩、耳の形、きれいですよね

先輩  (照れながら)あ、ありがとう…

マナ  何照れてるんですか。

    先輩のウチ、マンションだから庭ないし

先輩  うん…

マナ  嘘ばっかりじゃないですか! もう知らないです!

<SE>カランカラン

<SE>走り去る音

<BGM>夕暮れ

<SE>カラスの鳴き声

先輩  (走った後の息遣い)はぁ、はぁ、マナちゃん、足、速すぎ…

マナ  よく、ここがわかりましたね

先輩  わかるよ。

ここは、マナちゃんが好きな場所だから

マナ  んー。好きな場所かぁ…

    ちょっとだけ、ちがうかもしれません。

    ここ、めったに人が来ないから

    一人になりたいときに来るんです

先輩  そっか。

    …あ、ああ。ごめんね。

    一人になりたいときに、追い回して

マナ  んー。許してあげます。

    特別ですよ?

先輩  はは。ありがと。

    さっき、別れるって言われたときは肝が冷えたよ

マナ  (笑いをこらえながら喋る)はは!

    あ、あんなの、本気にしてくれてるんですか?

    ふっふふふふ!

先輩  いやいや、ほんとに驚いたよ

マナ  (笑いをこらえながら喋る)ふふ! ご、ごめんなさい! ふふ!

    だってぇ、リスに触れなかったら別れるって…! くっくく!

    ふふふ!

先輩  (ちょっといじける)俺だって、そんなに本気にしてないけどね

マナ  (笑い終わる)はぁーあ…、

    ごめんなさい、こんなとこまで付き合わせちゃって…

    めんどくさいヤツだって思いますよね?

先輩  そんなことないよ

マナ  先輩は優しいですよね…、

    いいんですよ? ほんとに別れても。

    今日だって、別に先輩が動物嫌いだって、リスに触れなくたって、

    どうだっていいことなのに…。

    なんか、ムキになっちゃって…、

    ほんと、自分がイヤになりますよ

先輩  そういうときもあるよ。

    そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな

マナ  …先輩、ちょっといい人過ぎです。

    なんで、そんなに優しくしてくれるんですか?

先輩  俺、ほんとにリスが嫌いだから、

    他の人にやられたら、もう本当にその人を許せないと思うけど。

    マナちゃんだったら、なんかもう、なんでも許せちゃうよ。

    俺がいい人なんじゃなくて、マナちゃんに甘いだけ

    

マナ  なんかそれ、あんまり健全じゃないかも

先輩  ははは。そうかも。

    でも、実際そうなんだから、仕方ないよ

マナ  なんか、照れちゃいますねぇ。

    先輩、私のこと好き過ぎじゃないですかぁ?

    怪しいなぁ。なんか隠してることあるんじゃないですかぁ?

先輩  隠してるって、例えば、どんなこと?

マナ  そうですねー。例えばぁ、実は生き別れた兄妹だとか、

    私が隠し持ってる国家機密を狙ってるとかぁ…

    はっ! もしかして、私の家の遺産相続を狙ってるとか?

先輩  狙ってない狙ってない。ていうか、マナちゃん家って、お金持ちだっけ?

マナ  ウチはしがない町中華です

先輩  …まぁあれだね。そういう照れ隠しが下手くそなとこも、好きだよ

マナ  あ、今、サラッと好きっていったぁ!

先輩  うん、好きだよ

マナ  ま、真顔で言わないでくださいよ。

    本気で照れちゃいますから!

    さ! もう暗くなってきたし、帰りますよ!

先輩  うん、帰ろうか

<SE>草むらを歩く音

マナ  (小声)わたしの方が好きですよ

先輩  え? 何か言った?

マナ  わ、え…、な、何にもいってませんけど!

先輩  そっか。でも、俺の方が好きだと思うな

マナ  え…。先輩って、意外といい性格してますよね

先輩  はは! まあ、そうかもね

マナ  <フェイドアウト開始>

    あの、ほんとの、ほんとの、ほんとうに別れるって言ったら、

          リス、触ってくれます?

先輩  それは無理かな

マナ  えー?

        <フェイドアウト終了>